ソフトボール部の練習が行われるのは、だいたい週に2~3回程度。水木曜の夜、土日曜の朝のいずれかで行われます。
なので僕はどの時間でも参加が出来るのですが、行く回数は減っていたのです。実質チームの一員ではないのもありますが、後ろめたさもあるのです。
基本『男子禁制』のこのクラブ、やはり男の僕がいるのは少しおかしい。こんなヤツが増えれば、トイレを覗いたりするヤツも出てきます。
やはり、あの監督さんのトイレを覗いたことが、引っ掛かるのです。まあ、『失敗して、見つかる前に逃げてしまえ。』です。
ただ、やはり期待されているのも分かっているだけに、揺れていたのは確実でした。
その日、練習に参加しようと歩いてグランドへと向かいます。そこで、向こうから歩いて来ている監督さんを見掛けるのです。
僕は監督さんの方へ向かって走り、『ハァ~…、ハァ~…、』と息を切らしながら、『それ持ちますっ!』と彼女から道具を取るのです。
『ええわぁ~!自分で持つからぁ~!』と言った監督さんでしたが、ほぼ無理矢理に奪い取ります。
そして自分の肩に担ぐと、『ありがとのぉ~。』とお礼を言われます。面白いものです、いつからかこの鬼監督の扱いにも慣れている自分がいるのですから。
残り200m程度の道を、監督さんと一緒に歩いて行くのです。すると、『プッブッ!』と軽いクラクションが鳴らされます。
車はゆっくりと並走をし、『監督ぅ~!若い彼、連れてるやんかぁ~!』とチームの方に声を掛けられました。
『いいやろ~?あげんよぉ~!』と返事をする監督さんを見て、『付き合ってるから~!』と女性に分かるように、監督さんと手を繋ぐのです。
『うわぁ~!ほんとやぁ~!ヒュ~!』と笑いながら、その方は先に行かれました。
初めて掴んだ監督さんの手。思ったよりも細く小さく、何よりも潤いがあるのです。それは鬼監督のものではなく、明らかに女性の手でした。
『アイツぅ~!バカにしてぇ~。』と言って女性を見送る監督さんの手を、僕はもう一度掴まえました。僕の思った通りの仕草を彼女は見せます。
『手、繋ぐなやぁ~!』、そんな言葉など出ません。出るわけがありません。彼女は慣れてないのですから。
突然、男に手を握られ、彼女に出来るのは『黙り』しかないのです。どう対処をしていいか分からず、男の行動を待っているのでした。
その日のグランド整備。順番で回されていて、監督さんを含む、3人で行われます。練習を終え、トンボを引きながら、グランドをならして行くのです。
そこに4人目の僕が加わります。みなさん何も言いませんが、男の僕に感謝をしているのは分かります。
そして、最後にカギを掛けるのは監督の清水さんでした。他の方を見送り、扉にカギが掛けられます。
すぐに、『兄ちゃん、ありがとなぁ~。お疲れさん。』とお礼が言われました。
しかし、彼女の道具は僕に担がれるのです。『もう、ええわぁ~!』と言った監督さん。しかし、僕が歩き始めると、仕方なく彼女も着いて来ます。
『兄ちゃん~?吉岡ちゃんに怒られるから、もうええわぁ~。』と言って来ました。監督さんも、やはり二人で歩くのには抵抗があるようです。
そこで、『吉岡さんには旦那さんがいるのぉ~。監督さんには居ないから大丈夫やろ~?』と言って、ごまかしてしまうのです。
その日、帰り道で再び監督さんの手を握りました。『やめなよ~。イヤやろ~。』と言われて手を下げられましたが、その手を離すことはありませんでした。
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