ドアの先には、見知らぬ男が立っていました。私も佐藤も、そこに立っているのは、てっきり夫だとばかり思っていたので、拍子抜けしました。「あのう、どちら様ですか?」紺のスーツを着た背の高い男は軽くお辞儀をしながら口を開きました。「山中美穂さんですね。」私は頷きながら「ハイ、そうです。」と返事をしました。「はじめまして・・・私は、あなたのご主人、山中仁志さんの弁護士を務めている常田准一という者です。」相手の男は、はっきりとした口調で自己紹介すると、名刺をさし出しました。『夫が雇った弁護士・・・』「今日は、ご主人からの依頼を受けて参りました。どうやら、佐藤さんもご帰宅なさったようですね。丁度、良かった。」おそらく、佐藤が帰宅するのを確認してやってきたはずです。「あのう、玄関先でお話しできる内容ではないので、申し訳ありませんが、中に入らせていただいてよろしいでしょうか?
私は、仕方なく常田と名乗る弁護士を部屋の中へと通しました。この後、常田弁護士は、私と佐藤に対する夫からのメッセージを伝え始めました。その内容は、大きく次の2点でした。一つ目は、佐藤が起訴猶予処分の条件を破ったことを一両日中に警察に通告すること、二つ目は、夫に精神的な苦痛を与えたことに対して、私と佐藤に総額500万円の「慰謝料」を請求すること。常田弁護士は淡々とこの2点について話した後、次のように切り出しました。「ただし・・・お二人が次の条件をのめば、今の2つのことは取り下げてもいいとご主人はおっしゃっています。」夫が出してきた条件とは、「私と佐藤が夫の前で正式に謝罪すること」、そして「佐藤は二度と私に合わないことを約束し、誓約書にサインすること」でした。
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