家庭の中で、日に日に苦しい立場に立たされていった私にとって、引き出しの奥にしまった佐藤の手紙だけが、唯一、心の拠り所になっていきました。どうやら、今のところ、夫はこのことに気づいていないようです。でも、夫に気づかれるのは時間の問題のような気がしました。夫は口では、「いつでも離婚してやる」「早く出ていけ」と言いながら、実際は、私に対する束縛を解きませんでした。時々、理由もなく昼間に電話をかけてきたり、一か月に一度くらい、「営業で近くに着たから」と言いながら急に家に寄ることもあるんです。どうやら、夫は依然として私が佐藤とよりを戻すのではないかと疑っているようでした。というより、夫は佐藤に対するコンプレックスを払拭できず、その影に怯えていたのかもしれません。家の中に隠しカメラを取り付けて私の行動を見張っている・・・そんな気すらしてしまいます。そんなことを考える度に、私は夫への愛情が薄れ、反対に、佐藤に対する思いが高まってくるのです。いつしか、本気で佐藤に会いたくなっている自分がいました。『会いたい・・・会って話したい・・・抱かれながら、あの胸で思い切り泣きたい・・・そして後は・・・』こうして悶々とした日々だけが過ぎていきました。それでも私は具体的な行動を起こす勇気がありませんでした。佐藤に会うことの意味は十分にわかっています。それは、家族をはじめ全てを捨てさることであること。ましてや、一度でも佐藤に会ったら、自分がどうなってしまうか・・・夫や娘の元へ帰って来られるか、まったく自信がありません。私は、ぎりぎりのところで踏みとどまり、娘を可愛がり、愛情を注ぐことで、かろうじて理性を保っていたのでした。
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