そして、その日はやってきました。ほぼいつもと同じ時間に玄関のチャイムが鳴り、しばらく鳴り続けていたチャイムが止むと同時に、玄関のドアが開く音がかすかにしました。『入ってきた・・・』私は、夫の指示通り、台所で洗い物をして気づかぬふりをしていました。やがて居間の扉が開き、佐藤が入ってくる気配がしました。「おい・・・」突然、背後から聞き覚えのある声がしました。私が振り向くと、そこには少しやつれた佐藤が立っていました。「お前・・・どうしたんだ?」私は佐藤の姿を見て、一瞬、戸惑い、我を忘れそうになりましたが、夫の顔が脳裏に浮かぶと打ち合わせ通りの行動に出ました。「何?・・・何でここにいるのよ!・・・出て行って・・・もうすぐ、主人が帰ってくるのよ・・・帰って・・・帰ってください!」私は、気持ちを吹っ切るかのように大声を出しました。「待て・・・とにかく話を聞いてくれ・・・」「話なんかない・・・もう、早く・・・帰って!」「なあ・・・」佐藤が近づいてきました。『ダメ・・・来ちゃ・・・早く・・・帰って・・・』心のどこかで、そんな私の声がしました。「いやあ・・・来ないで・・・」私は、近くにあった包丁を手にしました。「それ以上近づいたら・・・さあ・・・いいから出て行って・・・私・・・本気よ・・・」佐藤の足が止まりました。「お前・・・」もしかしたら、佐藤は私の表情の中に、何かを感じ取ったのかも知れませんでした。「早く・・・早く・・・帰って・・・」その時です、「ただいま・・・」玄関から夫の声がしたのは・・・。
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