中一日おいた、昼すぎ、玄関のチャイムが鳴りました。『佐藤だ・・・』それが佐藤の来訪を告げるものだということはすぐに分かりました。しかし、私は夫の言いつけを守り、2階の寝室から出ることはありませんでした。1階からは立て続けにチャイムが鳴り響く音が聞こえてきました。それは、まさに苛立つ佐藤の気持ちが表れているかのようでした。5分以上、チャイムは鳴り続けたましたが、やがてパッタリと鳴り止み、その後は嘘のような静けさが訪れました。私は、そっと窓から外を覗くと、佐藤がスマホをかけている様子が見えました。きっと、私の以前のスマホにかけていたのでしょう。通じるわけがありません。しばらくすると、今度は自宅の電話が鳴りました。おそらく、それも佐藤がかけてきたものだと容易に想像できました。もちろん、夫に命じられた通り、私が受話器をとることはありませんでした。佐藤はスマホをかけながら、しばらく自宅の前で立ち尽くしていましたが、やがて諦めると、帰っていきました。私は新しいスマホで、夫に連絡をとりました。「なんだ?」「佐藤が来ました・・・」「それで?」「今、諦めて帰っていきました・・・」「全て、打ち合わせ通りに行動したのか?」「はい・・・」「わかった・・・じゃあ切るぞ・・・」夫が、この時、『いったい何を考えているのか』はわかりませんでしたが、とりあえず、私は役目を果たしてホッとしたのを覚えています。その日の夜、夫は「おい、面白いものがあるから見せてやる」と私に言って、テレビの前に座らせました。夫はDVDデッキを操作すると。テレビの画面に驚くべき光景が映し出されました。それは自宅玄関前の映像で、そこには幾度も呼び鈴を鳴らすイラつく佐藤の姿、スマホでどこかへ電話する佐藤の姿が鮮明に映し出されていました。それらは昼間の出来事に間違いありませんでした。「これって・・・」「驚いたか・・・防犯カメラの映像だ・・・」「えっ?・・・あなた・・・こんなもの・・・いつの間に・・・」「それにしても、ざまあないな!佐藤のヤツ・・・お前を思う存分、抱けるとワクワクしてやってきたのに、適わなくて・・・イラついている・・・ざまあみろ!・・・バカなヤツだ!ははははは・・・」夫は履き捨てるように言いました。「お前も・・・ヤツに抱いてもらえなくて、残念だったな!」「・・・いいえ、そんなことありません・・・もう、そんな言い方しないで・・・」「我慢するな・・・カラダが疼いて仕方ないだろう・・・」「・・・いや、やめて・・・もう許して・・・」「まあ、いい・・・ヤツに対する復讐は、これからが本番だ・・・」そう言うと、夫は書斎へ上がっていきました。『あの人、何を考えているの?・・・怖い・・・まるで鬼だわ・・・』私は、そんなことを思いながら、夫の背中を見送ったのでした。
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