常田の運転する車で連れてこられたのは、町中の雑居ビル4階にある事務所でした。入り口には、〇〇興業という大きな立札が掲げられていました。そして通された大きな応接室、そこには恰幅のいい強面の男がソファアに座って待っていました。「社長、連れてきました・・・」男は一瞬、私を見ました。「ああ・・・あんたか・・・旦那と子どもを捨てて、男に走ったという女は・・・なるほど、なかなかいい女じゃないか・・・いかにも男好きするカラダだな。しかし、500万とは結構な慰謝料を払うことになったよな・・・もしかしたら別れた旦那は、本当はあんたに未練があったんじゃないか・・・でも、安心しな、あんたの元旦那にはすでに払っておいたから。」「ありがとうございます・・・」私は声を絞り出すようにお礼を言った。「あとは、お前さんが頑張って働いて、わしに借金を返せばいいだけだ・・・仕事はいくらでも世話してやるから・・・まあ、お前さんなら、がんばれば、2年で利息分も併せて、きれいにできるだろう・・・それまでは、あんたのカラダは、わしが預からせてもらう・・・所謂、借金の担保だな・・・」ここまで話を聞いて、ようやく、私は自分が置かれている状況がわかってきました。どうやら、私が連れてこられたのは、闇金融を経営する暴力団の事務所のようでした。要するに、私は借金のかたに暴力団に売られたのです。常田という弁護士は、どうやら、こちらの世界にもパイプを持っている男のようでした。口では悪いようにしないと甘い言葉を口にしながら、夫から一任されたのをいいことに、傷心状態の私をまんまと丸め込んで、知り合いの暴力団との取引道具にしたのです。おそらく、マージンとしてそれなりのお金を受け取ったはずです。とんでもない弁護士です。しかし、時すでに遅し・・・私にはしばらくは、この裏社会で生きていくしか他に選択肢はなかったのです。
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