変なカップルが誕生していました。この男とはコリゴリなのに、『私からは振りません!』と言ってしまった女。
素敵な女性でとても太刀打ちが出来ず、振られようとして叶わなかった男。『振るなら私を振ってっ!』と言われ、決定権はなぜか彼が持ってしまったのです。
別れたくても別れられなくなった、先生と旦那さんなのです。
次のデート。この日も、とある商店街に向かっていましたが、目的地はは映画館でした。上映されているのが話題作らしく、彼女からの要望でした。
駐車場に車を停め、すぐにアーケードの商店街へと出ます。そこで初めての二人の手が握られることになります。誘ったのは、先生の方でした。あの車での一件で、彼女は少しこの男性の良さを見つけました。
『誠実。』です。普通、あそこまでカッコ悪く自分のことをさらけ出す男はそうはいません。先生にはそう思えました。
男は女性にモテようと、どうしてもいいところを見せようとします。しかし、男性は違いました。『自分を振ってくださいっ!』とそこまで見せたのです。
それこそ、『はい、わかりました。』と彼女が言っていたならば、今日の二人はなかったのですから。先生もこの男性に少しは興味が出てきたようです。
映画館につきました。日曜日の話題作の映画、立ち見が出るほどの満席でした。今と違って入れ替えもなく、ロビーで映画の終わるのを待ちます。
男性は何度も映画館の扉を開き、残りの上映時間を確認します。とても迷惑な行為です。それでも、彼女と座るための席を確保したいのです。
上映が終わり、『柳瀬さん、席取ってきます!』と男性が飛び込みます。中では争奪戦が繰り広げられ、5分後、男性がロビーへと現れるのです。
『席、なんとか取れたから。』と先生に伝える男性。余程頑張ったのか、キチッとしていたヘアーが少し乱れています。
男性のために、『ありがとう~!』とわざとオーバーに喜び、彼女は映画館へと入って行くのです。諦めた立ち見のお客さんの姿も見えます。
彼女はその中を堂々と歩くのです。『私たちは、勝ち組っ!』
『ここですっ!』と告げられた、先生。しかし、そこは列の端の席で、隣には別のカップルが座っています。
先生は、『滝本さんのは~?!』と思わず聞いていました。『取れませんでしたけど、ここで座らせてもらいます。』と彼女の隣で、通路に腰を降ろすのです。
『いかんよー!あなたが席とったんでしょー!私がそっち座るわぁ~!』と先生は言いますが、男性はなにも言わず、先生の肩を押さえるのです。
それは、男性の精一杯の『気どり。』でした。年下で美人の彼女。自分には、もったいない女性。
『だから、そこを立たないでくれ!席を取れなかった自分に恥をかかさないでくれ!』と精一杯気取ったのです。
しかし、彼女は席を立ちました。男性の手を握り、立ち見の席へと移動をしたのです。目の前の腰まである手すりを確保し、男性と並んで映画を観ます。
先生は、男性の腕に抱きついていました。頬を寄せ、その腕に唇を押しつけていました。そして、こう思うのです。『私を振らないでください。』と…。
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