先生は、『とりあえず、全部降ろし~。』と言いました。僕は迷惑を感じながらも、言われた通りに荷物を運び込みます。
荷物を降ろし終え、リビングに行くと、やはり先生は浮かない顔をしています。なんの相談もしないで、ここに持ってきた僕が悪いのです。
しかし、先生は『持って帰って。』とは言いません。『起こったことは仕方がない。次、どうするか。』、母親だった彼女らしい行動です。
『子供がまた悪さをした。どう立ち振る舞おうか?』、母親だった彼女には慣れているのです。
先生は、携帯電話を取りました。僕をチラッと見ながら、『もう息子に本当のこと喋るよ~?いい~?』と聞いて来ます。
『うん。後で代わって…。』とだけ彼女に告げると、先生の携帯から呼び出し音が聞こえ始めます。
『あっ!マサくん~?お母さんやけど…。』と先生の挨拶でそれは始まりました。突然の電話に、息子さんも焦っているようです。
先生は、取り合えず身の回りの話から始めます。溜めておいた話もあったようです。それを、『うん、うん。』と聞いている息子さん。
そして、『それとねぇ~?マサくん~?お母さん、離婚しちゃったのぉ~。』とその話が始まります。
『そうそう…。うん、そうなのぉ~。ほんとゴメンねぇ~?』と先生の話し方で、息子さんは納得をしたようです。
電話を耳にした先生、チラッとこちらを見ました。『あと、それとねぇ~…、』と言い始めた彼女に、僕は手を延ばしました。
そして、『僕に話させて~!』と彼女に伝えます。僕の目を見た先生は、『ちょっと代わるねぇ~、タケ君…。』とそこまでの紹介をして、僕に渡します。
『あっ!タケイチです!』
『ああ、タケくんかぁ~!ひさしぶりやねぇ~?』
『ご無沙汰してます。』
『元気なん~?どうしたん~?』
『えぇ~と、先生離婚をされたみたいなんですが…。』
『うん。今、聞いたよ。』
『えぇ~と、僕、いま先生とお付き合いをさせてもらってるんですぅ~。』
それを聞いた息子さんは、頭の整理が出来ないのか、言葉に詰まっていました。
そこで、もう一度『僕、先生とお付き合いさせてもらってるんですぅ~?』と伝えました。彼がなかなか答えないので、僕は手が震えています。そして…
『えぇ~と、ゴメンねぇ~?タケ君が、うちのお袋と付き合っているってこと~?』
『はい!そうなんですぅ~。』
『マジぃ~?それ、マジでぇ~?!』
『はい~。マジなんですぅ~。』
『君ぃ~!思いきったなぁぁぁ~!!』
『はい~。思いきったんですぅ~。』
『アハハ~…。ちょっと、ビックリやわぁ~!ほんと、ちょっと待ってよぉ~!』
『はい~。待ちますぅ~。』
『ゴメン~、ほんと、ちょっと驚いてるわぁ~。参ったなぁ~。』
『ですよねぇ~?』
『えっ?もしかして、一緒に住んでるの~?』
『今日から準備して来たんですぅ~。』
『はぁ~…。えぇ~と、ちょっと聞いていい~?』
『はい~。いいですぅ~?』
『お袋には内緒やで~?もう、お袋と寝た?お袋には内緒やで!!』
『はい~。』
『その『はい~。』って言うのは、どっちの『はい~。』?もう犯ったってこと~?』
『はい~。終わりました…。』
『マジかぁ~!?もう負けるわぁ~。ほんまにぁ~。』
と、かなりのノリのよい息子さんで、なんとか伝えることに成功しました。僕が年下のこともあり、とても気を使ってもくれました。
『帰る時には、電話入れてあげるから。』、『部屋は空いているところ使いな。』、『お袋と仲良くしてやってな。』ととても優しい義兄でした。
電話を切ると、『なに、二人で漫才みたいなことしてるのぉ~?』と彼女は笑っていました。
普通ではなかなかない40歳の年の差カップル。ましてや、一度は『母と息子』となった二人です。
ノリのいい義理の兄に伝えるには、惚けて使えるのも一つの手でした。
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