月曜日の朝。目が覚めるとそこは和室で、目に飛び込んで来たのは、先生の家の御先祖様のお写真。その中でも、やはり旦那さんの顔に目が行ってしまう。
『見てた?見てた?やっぱり見てた?』などと心の中で思い、昨夜の先生との情事を振り返ると顔がほころんでもしまうのです。
キッチンに向かうと、『おはよぉ~!』と先生が声を掛けてくれます。朝食の準備も進んでいて、それはまるで母の姿です。
テーブルに腰掛けると、『早く食べて。お着替え取りに行かないといけないでしょ?』と心配をしてくれます。着替えは持ってなく、実家にあるのです。
食事を始めると、先生は流し台で洗い物を始めました。とても手際が良く、長く主婦をして培った経験を見せられるのでした。
寝起きの朝だからでしょうか、昨夜とても満足をしたからでしょうか、今の先生を見てもとてもイヤらしいことは考えません。女ではなく主婦、母なのです。
着替えを取りに行くため、家へ向かいます。いつもより早く起きているので、家にはまだ出勤前の父がいる可能性があります。正直、会いたくはありません。
それでも、『離婚届けに印を押したこと。』『先生と笑って写真を撮っていたこと。』、ちゃんと決着はしているはずです。そう信じ、実家の扉を開きました。
入ってすぐに人の気配がします。それはリビングからで、父がいることは確実です。『ただいまぁ~。』と声を掛け、僕は家へとあがりました。
向かったのは、やはり父の元です。とにかく顔を見て、父のご機嫌を知らないとと思ったからです。
リビングにいた父に、『ただいまぁ~。』ともう一度声を掛けます。テレビに目を向けたまま、『おお~。』と相変わらずの愛想のない返事です。
『着替え取りに来た。』と父に告げ、立ち去ろうとした時、『おいっ!そろそろ出るけどのぉ…。』と父が言います。続きがありそうなので、振り返りました。
すると、『泥棒みたいにコソコソするなぁ~。あの女が好きなんだろ~?荷物や全部持って~、そいつのとこに行かんかい~。』と言ってくれたのです。
『行って、そいつ大事にしてやれ~。』、不器用な父らしい、それでも優しい言葉でした。
午後5時30分。いつもより早く帰宅をさせてもらった僕は部屋へ駆け込み、先生の家へと運び入れる物の選択を始めます。
ある程度のモノは先生の家にあるので、着替えと身の回りくらいのモノで済みそうです。それを急いで車に積み込み、彼女の家へと向かいます。
着くと、ちょうど塾が終わっていて生徒さん達が門の前で立ち話をしています。2階には照明がついていて、先生はまだそこにいるようです。
僕は『みんな、ちょっとゴメン~。』と塾生に声を掛け、門の中へと車を運びいれます。それで帰る気になったのか、子供たちは帰っていきました。
少しして、2階から先生が下りて来ます。荷物を降ろそうとしている僕を見て、『おかえり~。なにそれ?』と聞いてきます。
僕は『もう、めんどくさいから着替えとか持ってきた。父ちゃんもそっち行けって。』と先生に伝えます。喜んでくれると思っていました。
好きな男が、『一緒に住む。』と言っているのですから。
しかし、『それ、どうするのよぉ~?どこに置くん~?』と聞いて来たのです。何か、意外でした。喜ぶというより、迷惑そうです。
『置き場所なんて、どこにでもあるやん。』『部屋だって、空き部屋あるやん。』と軽く考えていました。
しかし、あることに気がつくのです。この家には、話をして説得をしなければいけない人物がいることを…。
それは先生の息子さん。結婚して県外にいるとは言え、いつ帰って来るかも知れません。彼が帰ってきて、そこに僕の部屋があればなんと思うでしょう。
母が、40歳年下の、それも義理の息子だったヤツと関係を持ち、一緒に暮らしていると知ったら、なんと言うでしょう。
戦う相手は、父だけではないのです。
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