階段を上る先生の手には、離婚届の入った封筒が持たれていました。この後ベッドで過ごす時に、また先生はその離婚届を開いて見るつもりのようです。
寝室に入りました。しかし、昨日の二人の激しさを物語った跡が、ベッドにはまだ残されたままになっています。
先生は新しいシーツの準備を始めます。その時、『久美子さん?他の部屋行かない?』と誘ってみます。彼女に『どこ行くのよぉ~?』と逆に聞かれるのです。
先生の家は広くて狭い。息子さんの部屋を除けば、布団を敷く部屋など限られてしまうのです。僕は、『和室とかはぁ~?』と聞いてみます。
『畳、汚さない~?』と聞かれましたが、どう考えてもそこしかありません。取りあえず、その部屋を覗いてみます。
8帖の畳の間。完全来客用なので、畳は青く、あまり使われてないことがわかります。そこには大きな仏壇も置いてあり、壁には先祖の写真も飾られています。
見ただけで、ここは無理そうです。しかし、『ここにするぅ~?』と意外と前向きな先生に、『ここ、ここ。』と伝えるのでした。
和室に布団が敷かれます。汚してもいいように、シーツは2枚分が広げて敷かれました。それを当たり前のように準備をしてしまう、僕らもかなりのものです。
準備が整いました。すると先生から、『私の下着、何色がいい~?ご希望は~?』と聞かれます。
『赤ある?』と聞くと、『あるよぉ~。赤いのがいい~?』と言って、彼女は寝室へと掛け上がるのでした。
先生が戻って来ました。薄い青のネグリジェを羽織っていますが、その下には希望した赤い下着が着込まれていると思います。
蛍光灯の明かりが一段階消され、僕と彼女は布団の中へと入るのです。彼女は早速、あの離婚届を広げます。
ベッドじゃないので、寝たまま天井へとそるは差し出されるのでした。下から二人で覗きながら離婚届に目を通すのです。そして、ある事実を知ります。
『えっ?久美子さん、明日、誕生日~?』、全然知りませんでした。あと数分もすれば、彼女は1つ年を重ね、64歳になるのです。
『そうよぉ~。だから、今日お父さんに貰って来たのよ~。』と、彼女なりに身の回りをちゃんと綺麗にして明日を迎えかったようです。
僕は『なにかいる?』と聞いてみます。先生は考えて、あるプレゼントを要求して来ました。
それは、『明日から、名前で呼んでくれる~?』と言うものでした。『久美子さん、』と呼ぶ、その『さん、』を止めてほしいようです。僕も、なかなか『久美子!』とはまだ呼びづらいのです。
それでも『わかったわぁ~。』と彼女に告げてあげました。でないと、プレゼントにならないのです。
先生は、出していた離婚届を丁寧に折って、封筒へと仕舞い込みます。そして、彼女の誕生日まで後15分です。
僕と先生は、その15分を待っていました。先生は年齢を重ねたくはないでしょうが、とにかく過ぎてしまわないと、彼女の身体に手なんか出せないのです。
不意に彼女が、『あれ、旦那さんのお父さんよ~。』と写真に指をさします。そして、その妻。先生の義理の母にあたる方です。
そしてもちろん、その隣の写真を指さし、『あれが旦那さん。』と自分から説明をしてくれます。突然の彼女に、僕も『うん。』としか答えられません。
なぜ、突然そんなことを言い始めたのか、僕には理解が出来ませんでした。しかし、次の一言でそれがなんだったのかが分かるのです。
『お父さぁ~ん。目、つぶっとってねぇ~。』と旦那さんに語り掛ける先生。そうなのです。先生は旦那さんに見られながら、他の男に抱かれるのですから。
そして、時計は12時を回ります。リビングの時計が
向こうで一回鳴きました。僕はすぐに『久美子
おめでとう~!』と彼女に伝えます。
先生も『ありがと。』と短くお礼を言ってくれるのです。そして、『タケ君?みんな見てるんだから、ちゃんとしてよぉ~。』と意地悪にいう先生でした。
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