父の名前は『誠二』と言います。従業員20人程度の会社で土木作業員として働いています。帰って来れば、作業服は泥だらけ。
それでも、身体の大きかった父に、『おかえり~!』と言って、僕は抱きつきに行くのです。洗濯を気にする母は、それを苦い顔をして見つめていました。
今年初めの頃でした。父が会社で『誠さん、ちょっと。』とある人物に呼ばれます。向かったのは応接室。呼ばれたのは、社長さんでした。
そこで話をされたのは、『誠さん、営業をしてくれんかなぁ~?』と言う、人事異動の話だったのです。しかし、父は『やらんっ!』と即答をします。
現場仕事30年以上の父は、『今更、営業なんか。』と言う思いが強かったのです。それに相手は二代目の若社長。『若造が舐めるな!』だったのです。
しかし、それでも社長さんは諦めませんでした。『現場を経験してなかったら、営業なんか絶対に出来んのよ~。頼みます。』と頭を下げたのです。
男気のある父は、土下座まで仕掛けた社長さんの本気に負け、この春より、汚れた作業着から、折り目のついたスーツへと変えることになったのです。
午後6時。工事現場から一台のバンが戻って来ます。工事を終えて帰って来たのです。中からは、服は汚れ、大汗をかいた作業員さんが続々と降りてきます。
みんな、クタクタです。その光景を見た父は、社長のところへ行き、直談判をしたのです。
しばらくすると、作業員さん達を運ぶ車は2台に増え、エアコンも快適なるなど、彼らの苦労も軽減されるのでした。
現場あがりの父だからこそ、分かる苦労でした。しかしその時、父はこんな感覚を持ってしまうのです。
熱意さえあれば、いや、『力で脅せば、人は言うことを聞く。』のだと…。
春に若い新入社員が入って来ました。若いお兄ちゃん数名です。彼らはとても元気がよく、父もこれからを楽しみに出来る3人でした。
それとは別に、一人のパートのおばさんも入って来ます。60歳近い『安藤さん』という女性です。容姿はともかく、デブの普通のおばさんでした。
そんなおばさんですから、性欲の有り余る若い従業員さん達でさえ、視線には入りません。
安藤さんを女とは見ず、彼女の前でも、『あぁ~、股間触ってたら勃ってきた~。』『女とホテル行ってさぁ~。』など、平気で言ってしまうのでした。
結局、その安藤さんは僅か2ヶ月で退職をしてしまいます。その理由は、若い彼らの言動に耐えきれなくなった訳ではありません。
ホテルに連れ込んだ父が、彼女を突いたからです。
父の女性経験は豊富でした。しかし、下は淫行の高校生まで知っていましたが、年上の女性は今回が初めてだったのです。
自分より年上の女性を『オバハン、オバハン、』と父はバカにしたように言います。女として、性の対象として見ていないからです。
しかし、このどこにでもいるおばさんを抱いたことで、父の考えも少し変わるのです。『オバハンも、結構面白いものだ。』と…。
それは日曜日の朝でした。『ごめんくださぁ~い!』と女性が玄関を叩く音がします。父が玄関を開くと、そこには女性ではなく、男性が立っています。
70歳を遥かに越えた白髪頭の男性を見て、『ああ~。』と父は声を出します。その方は町内会の会長をしている越智さんだったのです。
しかし、その男性の顔が曖昧な父は、取りあえず『ああ~。』と言ってにげたのです。。町内のことは全て母がやっていたため、父はその程度の知識でした。
会長さんは、『町内会の会合、参加してくれんかのぉ?』と父に言います。母が死んでから4年、そんな会合になど参加するような父ではなかったのです。
『ちょっと、忙しくて…。』、父はここでも逃げます。基本、気心が知れない方には弱いのです。
しかし、『みんな来てくれてるんやから、ちゃんと出てきてくれよぉ~!』と強く会長に言われたことで、父の頭にも血が上ります。
『ちゃんと会費払いよるやろが~!それでええやろがぁ~!』と怒鳴ってしまったのです。父の言葉に、会長さんも少したじろぎます。
その時でした。『そういう言い方はいかんよ!』と、会長の隣にいた女性が父に意見を始めるのです。
その女性は、『みんなの町内会です!ちゃんと全員参加が基本です!そういう言い方されるなら、会費全部返します!抜けてください!』と言いきるのでした。
この女性こそ、のちに僕が好きなってしまう『滝本久美子先生』、その人だったのです。
そして、これが父と先生との出会いにもなるのでした。
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