長い夜でした…。
先生は夜10時を過ぎても帰っては来ません。何度も諦めて自宅へと帰ろうとも思いましたが、『あと5分だけ…。』が何度も繰り返されたのです。
先生を信じたい気持ちと、『今頃、父ちゃんとホテルで…。』と裏切られた気持ちとが、何度も交錯をしてしまいます。
午後11時を過ぎました。気がつきませんでしたが、家の中が何度も黄色くフラッシュをしています。窓から外を見ると、家の前に一台の車が停まっていました。
それは父の車ではなく、一台のタクシー。降りてきたのは、もちろん先生です。
玄関が開き、『ただいまぁ~!いるぅ~?』と彼女が声を掛けます。心配していたくせに、気にしない振りで『おかえり。』と出迎えるのです。
先生はリビングに現れ、この日のために着ていったよそ行きの洋服から、アクセサリーを外し始めます。ネックレスも着けていて、本気モードだったようです。
『ご飯食べたぁ~?』と聞かれ、『食べたよ。』とは答えますが、父とのホテルのことが気になり、それどころではありません。
しばらくして、普段着へと着替えた先生が現れ、『言いたいことがあるなら、ちゃんと言いなさい~。』と僕に言うのです。
先生は玄関を入ってからずっと、服を着替える間も、僕の様子を見ていたのです。『なんか言いたいことないの?』と言われますが、言葉が出ません。
『私が前の男と会ってたのよ?何もないの?』と言われ、思わず『心配してるに決まってるやろ~!』と強く言ってしまいます。
『それで?』と聞かれますが、先生の顔が次の僕の言葉を待っています。『どこ行ってたの…?』と聞きます。
しかし先生は、『違うでしょ~?他の男とどこ行ってたんや~!ウロウロするな~!でしょ?』と自分からその解答を言うのです。
言葉に詰まる僕に、『愛してるなら、そのくらい言ってよぉ~。』と寂しく語るのでした。
授業が終わると先生はテーブルにつき、僕を対面へと座らせます。そして、テーブルに出されたのは、一枚の封筒です。
『これねぇ~?』と先生が中から紙を取り出すと、それは緑色をした『離婚届』だったのです。すでに二人の印まで押されています。
『もらってきたのよぉ~。』と僕に伝える彼女。しかし、その顔は晴れてはなく、どこか寂しげにも感じます。
『父ちゃん、なんか言ってた?』と聞くと、『この話をしたのは、5分くらい。あとは、ずっとあなたの話ししてたのよ~。』と聞かされます。
『写真送ったでしょ?』
『うん。』
『あれは、お父さんが『送れ、送れ、』って。』
『どうして?』
『絶対に心配するだろうからって。』
子供の僕の考えることなど、大人の二人には簡単にわかってしまうようです。
『で?どうする~?』
『なにがぁ~?』
『私、独身になったのよぉ~。』
『ああ、そだねぇ。』
『タケ君の気持ちも聞かせてよ~。』
そう言われた僕は、やはり先生をベッドへと連れて行くことになります。しかし、そこで本当の滝本久美子という女性を知ることになるのです。
元の旦那さんの時には、リードは彼女がしていました。それが父になると立場は逆転をしますが、最終的には彼女はそれが嫌になり、父と別れたのです。
実は彼女、セックスには貪欲で、本当は男を自分からリードしたいタイプなのです。そういう意味では、この僕はうってつけの男ということになります。
この日の、彼女はずっと、僕に覆い被さっていました。僕に何でも教えたくて仕方がなかったのです。当たり前です。だって彼女は『先生』なのですから。
ー Fin ー
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