『ちょっと待てぇ~!ハッキリ言え!お前ら、どうしたいんや!』、父の声が一段階あがりました。もう、ケンカモードに入ります。
『なあ~?オバハンよぉ~?お前60過ぎて、うちの息子に手出すんかぁ~!お前、うちの息子と結婚でもするつもりかぁ~?』と先生への侮辱から始まります。
『結婚なんかするはずないでしょ!』と先生も引き下がりません。『なら、なんや!?男が欲しいんかい?若い男が欲しいんか!』と父が捲し立てます。
先生は『違う~!間違ってるのは、あなたぁ~!もういい加減、その子を自由にさせてあげてよっ!可哀想やないの~!』とまさかの言葉を返すのです。
僕は、言葉を失いました。この話し合い、先生は最初から自分ではなく、僕のための話し合いをするつもりだったのです。
『なにがや!俺がどうコイツを自由にさせてないって言うんや!』と父が返します。
先生は『こんないい子いないわぁ~。だから、もうあんたが子離れする時やわ!いい加減しなよ!』と父を黙らせるのです。
僕は知りませんでした。母が死んで4年、ずっとこの生活が普通と思っていただけに、嫁に来た先生には普通とは見えなかったようです。
会社が終わって、すぐに帰宅。母のいない家を守り、父の帰りを待ちます。お給料の2/3は家に入れ、下手な料理も少しは覚えました。
それが『母を失った者の生活』、そう諦めて過ごして来たのです。
父は、『お前、ほんまか?』と僕に聞きます。しかし、先生は『その子があんたに本当のこと言うわけないよ!』と言います。
そして、『子供はあんた!力でなんでも出来ると思ってるあんたが子供なの!』と父を罵るのです。その顔は、子供を叱りつける先生の顔になっていました。
息子に妻を寝とられ、自分の欠点を責められる姿を息子に見られた父には、もうこの家にいる場所などどこにもありませんでした。我が家でこその父なのです。
父はようやく、リビングに腰を下ろしました。ずっと立って、人を見下しながら話をしていたのです。
『久美子さんよぉ~、ちょっとお茶くれ。大きな声出しすぎて、喉が乾いた。』と先生に言います。先生は冷蔵庫からお茶を取り出し、みんなに渡します。
父は、『お前、このオバハンとどうしたいんや?』と僕に聞いて来ます。僕は、突然の質問にすぐには答えられません。
しかし、『もう喉が痛いから、大きな声は出せんわぁ。お前、先生と一緒にいたいんか?』と聞かれ、『うん。いたい。』と答えます。
『久美子さんはぁ~?こいつ、どうしたい~?』と聞くと、『どうもせんよ~。あんたじゃあるまいし~。』と先生は答えます。
父は渡されたお茶を一気に飲み干すと、『よっしゃ!帰るわ~!』と言って立ち上がります。そして僕に『お前、ちょっと来い。話がある。』と言うのです。
心配そうに見詰める先生をよそに、僕は玄関の外へと連れ出されます。
そして、父は僕に『あのオバハン、ちゃんと手に入れるんぞ。わかったか?今日は帰って来んでええから、うまいことやってこい!』と告げて去るのでした。
※元投稿はこちら >>