『あれ~!どこか行くのぉ~?』、先生と玄関を出たところに、偶然僕の姉がやって来たのです。『ごめーん、今から出るところなの~。』と先生は言います。
姉は用事だけ済ませると、『どこ行くん?』と聞いてきます。先生は、こう答えました。
『京都…、京都の嵐山…。』
無知な僕は、嵐山なんて場所知りもしませんでした。ネットで調べても、そのよさが分からず、ただ『嵐山に行きたい。』と行った彼女の願いを叶えるのです。
後で聞かされた話です。先生が元の旦那さんから、正式にプロポーズをされたのが、この嵐山っていう場所でした。
その思い出の場所に、もう一度行ってみたくなったそうです。30年以上ぶりの来訪ということになります。
僕は『先生と旅行。』、そう思って少し浮かれていました。しかし、彼女には少し違っていたようです。
『ちょっと待っててくれる?』、『ちょっと一人で行って来てもいい?』と時折自由行動を始め、僕もしばし一人にされることが多いのです。
ただ、そんな先生を見て、『これは旅行に来たんじゃないなぁ~。』と、バカな僕でもそのくらいは分かるのです。
夕方になり、有名な橋に着きました。とても有名そうで、観光客も多いです。『橋、行く?』と聞くと、彼女はある写真を取り出しました。
それはタンスに仕舞っていた先生と旦那さんの色あせたスナップ写真です。彼女は僕にそれを見せると、『お父さんと行ってきてもいい?』と言います。
嫉妬などしません。彼女の気持ちも分かってあげられ、『うん。』とだけ答えました。
彼女は観光客に紛れて、橋へと向かいました。すぐに先生の姿を見失った僕は、ただそこで彼女を待ち続けるのです。
先生の姿が見えたのは、30分以上も断ってからのこと。かなり橋の上でいたようです。
『面白かったぁ~?』と聞くと、彼女は『うん、終わったぁ~。』と答えました。『終わった?』、僕はあえて聞き返しませんでした。
彼女の目が、泣いた後だと分かったからです。
先生の持っていた、旦那さんとのスナップ写真。しかし、今は彼女の手元にはもうありませんでした。どこへ消えたのでしょうか。
この橋は、夜にはライトアップをされていました。そこで彼女にこう言われるのです。
『私、70歳で死ぬ予定だから…。』
『なにが~?』
『だから、あと6年…。』
『うん…。』
『6年だけ、私と付き合ってくれるぅ~?』
『6年だけ~?』
『さっき、旦那さんにお願いしてきたの。』
『なに?』
『あと6年だけ、この子といたい…って。』
『旦那さんは何て言ってたぁ~。』
『ダメぇー!って。』
『だから、写真流してきたの~?』
『知ってたかぁ~。』
『それで?』
『ゆるしてくれた…。』
『そう…。』
『うん…。』
『久美子さぁ、6年だけ結婚しようか?』
『えぇ~?出来んよぉ~。』
『6時だけだよ。』
『いかんってぇ~。出来んよぉ~。』
『川に長そうか?』
『ククッ…、私が流されるの?』
『川に流れされながら、久美子はどう言う?』
『わたしぃ~?わたしだったら…、こう言うかなぁ~?』
『あなたと結婚しますって!』
~ おしまい ~
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