翌日の夕方。
部活を終えたリョウタは借りた検査着を返すため保健室に向かった。保健室は校舎の端にある。暗がりの廊下にもう人影はない。
『やば、ちょっと遅くなっちゃったな、、リツコ先生、まだ居るかな』
リョウタが保健室へと続く階段を上がり踊り場にさしかかったとき、ちょうど階段の上から教頭が降りてきた。教頭の広い額には少し汗が滲んでいるように見えた。リョウタは昨日のことを思い出し、緊張し体が硬くなった。
『君、もう放課後だっていうのにこんなところで何をしてるんだね?』
『き、昨日借りた検査着を返そうと思って、、』
『昨日?、、、ふん、まぁいい、用が済んだらさっさと帰りなさい、いいね』
何かを考えるような間を挟んでから、教頭はリョウタを冷たくたしなめる。リョウタは小声で『はい』とだけ答えて階段を上った。
リョウタは保健室の扉をノックした。
中から返事はなく、磨りガラスから見えるはずの明かりも点いていない。しかし扉の鍵は開いていた。
リョウタはそっとドアノブを握り恐る恐る扉を開けてみた。
『失礼、します、、』
一見リツコの姿が見当たらなかったが少し奥まで入ると白衣姿のリツコがベッドを整えていた。リツコはリョウタに気付いていないようだ。彼女が着ている白衣はよれてシワができている。
『あの、、リツコ先生、、?』
リョウタの呼びかけでリツコはようやく気が付いた。
「リョウタ君、、ごめんね気づかなくて、、今日は、どうしたの?」
『昨日借りたコレ、返しにきました』
「そうだったわね、わざわざありがとう。リョウタ君は真面目ね」
リョウタから検査着を受け取ったリツコはそれを戸棚にしまうと、事務机に座り書類の整理を始めた。
『あ、あの、、先生、、』
「うん、なぁに?」
書類に目を通しながら返事をするリツコ。
唾を一飲みしてからリョウタが続けた。
『さっき、教頭先生とすれ違いました。そこの階段で』
「、、そう」
リツコはそれ以上口を開かず書類の整理を続けている。
『、、僕、、見ちゃったんです、、、昨日、教頭先生とシテるとこ、、』
リツコの書類を捲る手の動きが止まった。2人の間に沈黙が流れる。
『ご、ごめんなさい、、いけないと思ったんです、、けど、、気になっちゃって、、』
リツコの手が再び動き出した。
無言のまま机の上で書類をトントンと整理してから、椅子をくるりと回しリョウタの方を向いた。
「、、全部見られちゃってたのね、、、ごめんなさい、驚いたでしょ、、」
謝るリツコの表情は憂いでいた。
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