しばらくして保健室の扉が開いた。
足音からするとリツコが戻って来たようだ。その足音はリョウタの居るベッドの方に向かってくる。彼はとっさに寝たふりをする。カーテンの外で足音が止まり、少し間があってからカーテンが開く音がした。
「リョウタ君? 具合はどう?」
寝たふりをするリョウタはリツコの言葉に反応せずにいた。彼がベッドの中でリツコの口調を分析するに、さっきまで覗き見ていたことはバレていないように感じた。ひとつ不安が晴れた彼はホッとしていた。
「まだ寝てるのかな? 制服と鞄、ここに置いておくわね」
リツコはベッドの脇にそれを静かに置いた。彼女はわざわざ部室まで行き、リョウタの制服と鞄を取ってきてくれたようだ。あんなことがあった後にもかかわらず、なんとも献身的なのだろうか。リツコは再びカーテンを閉め直し、教頭との行為で乱れてしまった隣のベッドを整えている。
リョウタはリツコが離れていったのを見計らい、静かにベッドから起き上がって制服に着替えた。
『、先生、、、』
リョウタの突然の呼びかけに一瞬驚いた顔をしたリツコだったが、すぐにいつもの柔和な表情に戻った。
「リョウタ君、、どう?具合は」
『は、はい、、もう、大丈夫です』
「そう、良かったわね。今はもう夕方よ」
時計を見るとちょうど17時半。
夕陽が保健室に射し込み、壁やカーテンをオレンジ色に染めている。
「部活はもう終わっちゃったみたいだけど、家には帰れそう? 先生が家までついてってあげよっか?」
『い、いえっ、大丈夫です、ひとりで帰れますから』
「そう、、それじゃあ気をつけてね。検査着、そこに置いてっていいわよ」
『あ、洗って返します、ありがとうございました、、それじゃ、さよなら』
「ええ、さよなら」
リョウタはリツコの顔をさえまともに見れないまま保健室を後にした。
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