夕方、酒盛りの時間まではまだあると言って、旦那が和也のために広い敷地を案内してくれるという。
『兄ちゃん、せっかくじゃからうちの庭ば案内してやっと』
「あんた、またどっか行くんじゃなかとよ。あんたが居ないと宴会も始まらんけんね」
『おぅ、分かっとるわい。庭におるけんの』
放浪癖のある旦那を心配して、奥さんが声をかけた。旦那はさして気にもせず、和也を連れて庭に出た。
庭と言っても都会の住宅のような垣根や柵はなく、只々広大な土地が広がっている。
『あのぉ、お庭はどこからどこまでなんですか?』
『あんまり広すぎるもんで、わしもよく分かっとらんのじゃが、たしか向こうさ見える杉の木んとこからこっちの畑の端までじゃったかの』
旦那は遠くを指差しながら曖昧にそう答えた。
『それとな、家の後ろさあるこの裏山もうちのもんじゃ』
『や、山?! 』
『毎年、立派なイチモツみてぇな松茸がたんまり採れるんでな、儲かって儲かってたまらんのだわ 笑』
和也は安月給ながら念願叶ってようやく建てた、小さな庭付き一戸建ての我が家を思い浮かべ、比較するのも憚られるほど恥ずかしく感じた。
そんな和也をよそに、旦那は煙草に火を点けくわえ煙草でスタスタと歩いていく。屋敷のすぐ隣にはこれまた屋敷と同じぐらいの大きさの建物が建っていた。
『ここは納屋じゃ。まぁ物置みてぇなもんじゃな。中さ入ってもかまわんぞ』
和也は舞い上がる土埃に眉をひそめながら、納屋の中に入らせてもらった。
古い作りの納屋の1階には、ワックスでも塗ったかのようにギラギラと光る巨大なトラクターが置いてあった。
『これは凄い、最新の型式じゃないですか』
『あぁ、、実はな、、先月別の者から買っちまったんじゃ。兄ちゃん、売りさ来るのがちと遅かったのぉ 笑』
『そ、そうだったんですか、、ハ、ハハ、ハハハ、、』
納屋に和也の乾いた笑い声が侘しく響く。
つづく
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