乾杯の後、村の男達は豪快な呑みっぷりで日本酒が入ったコップをどんどん空けていく。
和也はそんな空気感に圧倒され、肝心の営業話をどう切り出そうか躊躇っていた。
幸い、ひとりの農夫が和也の存在にようやく気付いてくれた。
『ところで旦那さんよ、そこさ座ってる若ぇ兄ちゃんは何者だい?』
『おお、そうじゃった、忘れとったで。この兄ちゃんは東京からはるばるトラクターば売りさ来たセールスマンじゃ。誰か1台買ってやるっちゅう奴はおらんか? 笑』
『なんじゃ物売りかい。わしゃ好かんなぁ』
『東京の人間は金の話しかせんじゃろ、信じられんわい』
和也は中腰でその場に立ち軽く会釈をした。本当ならば、ここで営業トークを展開したいところだったが、男達の快くない言葉に尻込みしてしまった。
和也は再び腰を下ろしたものの、宴会の輪に入れぬまま時間ばかりが過ぎていく。
和也はぬるくなったビールをチビチビと呑みながら、宴会の様子を眺めていた。
奥さんの言っていた通り、10人の男達がテーブルを囲んでいる。
ところどころ、連れ立ってやってきた妻達が男達の間に入ってお酌をしている。もちろんその中にはあの旦那の奥さんの姿もあった。妻達は皆、農作業をしているわりに色白美麗な顔をしている。
男達は酔っているのか、お酌をしている他人妻の腰に手を回し、あろうことか尻や太ももをスケベな手つきで撫で回している。
一方の妻達はというと、旦那以外の男に触られているにもかかわらず嫌がるそぶりも見せず談笑している。
その異様な光景は、さながら場末のキャバクラのようだった。
つづく
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