酔った人は好きではありません。それは美和子さんと言えども同じこと。面倒くさいのは嫌なのです。
それに、きっと微妙な関係が面白かったんです。お互いに言える言えない、そんなところです。
彼女に対しての憧れとイメージは、あのラインの会話によって崩れてしまったようにも思えます。僕が望んでいるのは、あんな美和子さんではないのです。
一気に興味が薄れてしまい、心のどこかで『もう避けよう。』などと思ってもしまいます。
しかし、ラインが来れば返してしまい、普段の彼女だとそれはとても楽しいものです。ほんど、あの時だけは僕の見たくない彼女だったのです。
あのラインから、初めて家を訪れました。あんな会話の後なので、僕もいろいろと考えたりもしてしまいます。
しかし、会話は至って平穏でした。いつもの僕とおばさんなのです。やはり、ラインは別物なのでしょう。
美和子さんがスマホを取り出しました。彼女もなかなかのスマホ依存者なのです。その画面を見ながら、『私、酔ってたよねぇー。』と聞いて来ます。
もちろん、あのラインの時のことです。『すごいこと書いてるわぁー。』と、書いた本人ですら呆れています。彼女も気になってきたのです。
『お酒飲むの?』と聞くと、『好きやねぇー。酔うと、わたし面倒くさいよー。』と自覚はあるようです。
その日、初めて二人の間にお酒が出されました。グラスも用意されない、缶ビールです。僕はあまり強くないため、350ミリリットル缶を。
美和子さんは、もちろん500ミリリットル缶に口をつけます。一本目は普通でした。おとなしいものです。ところが『もう一本飲んでもいい?』と取りに行きます。
この一本がやっかいでした。酔った方特有の笑い顔を見せ始め、『これはマズい!』と帰る準備に入ります。
すると、僕のスマホにラインが入ります。美和子さんからでした。そこには、『タカトくんのオナニー話が聞きたい!』と思いっきり書かれていました。
美和子さんを見ると、笑いながらスマホを見つめ、次の文章を入力中です。僕の大嫌いな雰囲気となっていたのです。
『おばちゃん、帰るよー。』と立ち上がりました。すると、『もうちょっとー!』と完全に酔いモードです。
そして、『帰ったらいかんー!帰ったらダーメー!』と部屋を出て、戸締りまでする始末。もう、『なんだ、こいつ?』ですよ。
更に座り込み、すぐにスマホに指を当てています。依存度は高そうです。そして、『私でオナニーしてるんでしょー!いてよー!』と声をあらげます。
ラインが鳴りました。もちろん、彼女からです。『オナニー話が聞きたいのー!』とまた同じ内容です。
『わかったわかった!また今度するから。また今度ね!』と立ち上がります。『ダーメー!』と言って、僕の片足にしがみつくのです。
ほんと、もう面倒くさいです。彼女は帰すまいと足を掴んだままでした。手には、それでもスマホが握られ、もう怖いです。
『もう離そ、もう離そ、』と言って、振りほどきに掛かりますが、しっかりと掴んでいて離れようとしません。
『タカトくんのオナニー話が聞きたいのー!』とラインではなく、いよいよその口で言ってしまい、どこか彼女の本性を見た気になります。
僕は半分疲れて、テーブルに腰を降ろしました。座ったことで、美和子さんの手が少し緩みます。『なら、するから、ちょっと座りー。』と言ってあげます。
美和子さんはようやく手を離し、それでも僕の側から離れようとはしません。そこで、僕はテーブルから降り、彼女と同じ目線になります。
『じゃあ、なにから言おうか?』と聞くと、『何でもいいー。』と言います。彼女はテーブルにあったビール缶に手を伸ばし、また口に運びました。
しかし、中にはもう残ってはおらず、『ちょっと待ってー!おビール取ってくるー。』と言うのです。
これ以上は関わりたくない僕は、初めて美和子さんの手を取りました。彼女の腕はとても細く、僕の指が一周するのではないかと思うほど。
『おビール取ってくるだけぇ~。』と言う彼女を引っ張りました。僕の思っていた以上に、彼女は小さく、弱く、そして軽い。
どのタイミングで、僕はそう思ってしまったのだろうか。暴れる彼女を、しっかりと自分の胸に抱きかかえていました。
人間を抱いているというより、暴れる犬をなんとか黙らせようと押さえつけているといった感じです。
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