『加藤くん、ごめんねぇ~?』、美和子さんの口から出た言葉に、頭が混乱をしてしまいます。マッチィをかばい、その母親として僕に詫びたのです。
『なんでおばさんが、いま謝った?』と、頭が整理を始めます。彼女のためにやっているのに、なんで彼女が謝るのか。
もしかして、息子の行動を詫びたのではなく、僕とこんな関係になってしまったことを詫びているのではないか。そこまで考えてしまうのです。
それでも、僕の標的は目の前で困っている息子でした。『もう、いくしかない。』と彼に告げるのです。
『お前のお袋と、セックスしてたからに決まってるやろー!そんなこともわからんかー?!』とついにその事実を口にしてしまいました。
『もしかしたら、いつかマッチィに白状する時がくるかも。』との思いはありましたが、まさかこんな投げやりで言うことになろうとは…。
マッチィはうつ向いたままでした。『母親と友達がセックス…。』、その事実を告げられた彼もまた被害者なのです。
『俺、お前のお母さん好きやで。愛してるよ。なんかあるー?』と聞きますが、彼も頭が混乱をしているようで、言葉が出ません。
『美和子さんを愛してるよ、なんかあるー?』と続けましたが、沈む彼に伝わるはずもなく、僕の言葉は居間に虚しく響くのでした。
しばらくうつ向いたままの彼。何か声を掛けてあげなうと、その顔は上がってきそうもありません。
『もうやめるー?』と優しく聞くと、『もうええよ。』と言って、ようやくとその頭が上がるのでした。
それを聞いた美和子さんは、そそくさと居間から離れ、自分の部屋に駆け込みました。二人にされてしまい、仕方なく僕は彼に話し掛けます。
『マッチィ、ごめんなぁ~。』と言って、それは始まりました。写真をネタに脅し掛けようとした彼も、僕と同じでケンカは苦手。
お互いに無理をしていたのです。
マッチィは立ち上がり、冷蔵庫を開きます。『ビール?』と聞かれましたが、断り、缶コーヒーを貰います。合わせて、缶コーヒーが彼の前に置かれます。
ようやく落ち着いたのか、『なぁなぁ?お母さんのどこがいいん?』と聞いて来ました。確かに、息子から見ればただのおばさん。
僕も、自分の母ならそう思うはずです。『お前、アホやなぁ~。男と女には、そんなもの関係ないの!』と、笑って返すしかありません。
ひさしぶりに彼と笑ったように気がします。仕事での愛想ではなく、10年前に戻った子供のように無邪気に笑いました。
それは深夜にまで及び、居間の電気は消えることはありませんでした。
ああ、ここにドラゴンボールのマンガがあれば、最高だったのに。
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