お風呂から出た美和子さん。僕の姿を見て、驚いたことと思います。さっきまで全裸だったのに、服を着込んで帰るような気配なのです。
『帰るのー?』と聞かれ、『そうしようかと…。』と言葉を濁します。彼女も想定外だったのかも知れません。次の言葉に困っています。
僕はポケットから財布を出し、中からスキンを取り出します。『ごめん、コレ持ってたから…。』と
謝るつもりで、それを見せます。
それを見た彼女は、『ああ、買ったのー?』と聞いて来たので、『おばちゃん、言ってたやろー?買ったわー。』とにがい顔ながら、笑って返しました。
すると、おばさんの手が目に当てられました。手が離れると、その目が潤んでいるのです。『泣いてる?』、まさかでした。彼女が涙をぬぐったのです。
『怒ってないよー。おばちゃん、加藤くんに怒ったりしてないよー。』と言って来ます。
しかし、風呂場に向かった時の彼女は、間違いなくふて腐れていました。しかし、スキンを出して謝る姿に、彼女の母性が反応をしてしまったのです。
彼女は女ではあるが、母親でした。いたずらをした子供が正直に謝ってくれば、母親らしい対応をするのが身体に染み付いているのでしょう。
マッチィとその弟、二人の子供を育てあげたお母さんなのですから。
美和子さんは、溢れる涙を堪えていましたが、いよいよ追いつかなくなり、手でぬぐうようになります。鼻をすすり、これは完全に泣いています。
必死にごまかそうとはしていますが、いつからか自分でも諦めたようです。そして、『加藤くん見てたら、泣いてしもたわー。』と白状するのでした。
おばさんの涙は、すぐに止まりました。僅か1~2分の話です。『私、怒ってないよー。全然、怒ってないー。』と笑顔が戻るのです。
そう言うおばさんも、パジャマを着込んでいます。もう、僕に抱かれることは望んでなかったのかも知れません。
抱かれたくない女、帰ろうとしている男。答えは一つしかありません。ここでバイバイのはずです。
しかし、美和子さんの行動で、様相が変わり始めるのでした。
彼女は今いる居間を見渡し、ダメと分かると自分の部屋を覗きます。最後は、息子の部屋を確認して、戻って来ました。
そして、『加藤くん、いま何時ごろー?』と聞いて来るのです。スマホを覗き、時間の確認をして伝えると、彼女はすでに部屋の時計を見ていました。
『9時かぁ…。』と呟き、何かを考えている美和子さん。
『どうしようかぁ~…。』と一人言をいい、考えを張り巡らせているようです。そして、『行く~?云ってみるなぁ~?』と声を掛けて来ました。
意味の分からない彼女の言葉に、『なにがー?』と聞いてしまいます。しかし、僕の言葉は一旦かき消され、彼女は自分の考えをまとめているようです。
出た答えは、『んー?ホテル…。今から、言ってみるなー?』というものでした。
あまりに自然な言い方です。母親から、『今から、ゴハンでも食べに行くんなー?』と言われた、そんな感じなのです。
『ホテル?ホテル行くんー?』と、僕は聞き返していました。『そおー。ちょっと、行ってみようかー?』と答えられ、聞き間違いでないことが分かります。
僕は、おもちゃ屋に連れて行ってくれてくれる時の、子供のように喜んでいました。美和子さんとホテル。なにより、彼女と初めてのおでかけなのです。
『ちょっと準備するわー。』と言って、始めた美和子さん。スーパーにでも出掛けるかのように、ゆっくりとした姿です。
その姿は、家でよく見るうちの母親とあまり変わりません。忘れ物をしないようにと、とてもゆっくりとした準備です。
しかし、うちの母親と違うのは、彼女がこれから向かうのはラブホテルだと言うこと。なのに、その落ち着きは何なんでしょうか。
『ホテルで彼女とセックス出来るー!』と浮かれる僕に対し、彼女はどっしりと構えているように感じます。
午後9時過ぎ。これからラブホに向かおうとする主婦って、こんな感じなのでしょうか。
おもちゃ屋に連れて行ってくれると浮かれる僕と、子供のためにそれに付き合おうとしている母親。
日曜日に、トイザらスで見掛ける光景そのものです。
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