いい印象を持っていなかったマッチィに対し、僕のアドバイスが増えました。『こんな書類いる?段取りしようか?』と、そんな意見もするようになります。
『じゃあ、もらおうか?』とあまり必要がないと思われても、積極的な協力をしようとする僕を、彼は拒みませんでした。
『なら、家にほおり込んでおくわ。』、締めは必ず、僕がこう答えて終わります。目的は、それだったのかも知れません。
約10年全然会ってなかったマッチィ家と、やたらと接触が増えます。もちろん、彼からあの電話があってからです。
『あの子、またなぁ~。ごめんねぇ。』、頻繁に現れるようになった僕に、おばさんは口癖のようにこう言うようになります。
客人を手ぶらで帰すわけにも行かず、会話をし、時にはお茶の一つも出すのが主婦ってものです。この日、居間に招かれたのは、4度目のこととなります。
『そう言えば、電気屋さんだったよねぇ?』、この前に言ったことを覚えていたようで、おばさんに聞かれました。
『ちょっと、見てくれる?』と言われ、通されたのはお風呂場。脱衣場の照明が何年も点いていないようだった。
かろうじて風呂場の電気がつくようで、その明かりで脱衣場で洗濯を行っているようでした。
脱衣場の照明のスイッチに触れてみます。その原因は、わずか数秒で分かりました。スイッチがスカスカ。壊れているのです。
『交換やね。今度、替えてあげるわ。』と言い、またこの家に来る口実を作ってしまいます。
翌日。初めて、この家に連チャンで訪れました。脱衣場のスイッチの修理です。古い家で電気の回路が少なく、ブレーカーを切ると全ての照明が消えました。
おばさんに『これ、持っててくれる?』と懐中電灯を渡し、スイッチ交換のために手元を照らしてもらいます。
真っ暗な中、懐中電灯を持ったおばさんが寄り添ってくれていて、『いいところを見せないと。』など考えたりしてしまう、いい雰囲気でした。
そのいい雰囲気も、たった5~6分で終わってしまい、この家に明るさが戻るのです。
『お金…。』と言われますが、『いいよー。もらえんよー。』と言い、どこか貸しを作れた気もします。
『おばさん、仕事は?』と聞いてみました。すると、こちらでは結構大きめの、本屋で働いていると聞かされます。
高校、会社と近くに大きい本屋があったので、僕がその店にわざわざ行くことはなく、おばさんが働いているなど知らなかったのです。
『ええ~?あそこぉー??』と驚いたように聞き返します。おばさんは得意気になり、『もう7年くらい働いてるのよ。』と笑顔で答えてくれるのでした。
次の日。僕はその本屋にいました。おばさんは探す必要もなく、レジで応対をしています。基本、レジ番なのです。
買いたい本もなく、週刊誌とゲーム攻略本を持って、レジに向かいます。お客の対応も忘れ、もうそれだけで笑っていました。
『お客、お客、』とこちらが言って、心配してあげるほど。他の店員さんの手前、やはり馴れ馴れしいのはよくありません。
レジを済ませ、『ありがと!』と声を掛けられました。きっと、僕の下心にも薄々気づいているのかも知れません。
だって、おばさんと4日続けて会っているのですから。
※元投稿はこちら >>