問診票には回答項目がいくつか並んでいる。体の不調や精神的な悩み、重点的にマッサージしてほしい部位など、加奈子はそのひとつひとつに律儀に答えていく。
ある項目のところで加奈子の手が止まった。
《配偶者や恋人との関係に不満はございますか?》
(不満、、かぁ、、)
加奈子は日頃の夫との夫婦生活について、正直に書くかどうか迷った。しかし、ここで嘘をついてもしょうがないと思い直し、彼女は最後までペンを走らせた。
加奈子が問診票を書き終えた頃、ちょうど神向寺が戻ってきた。健康的に日焼けした浅黒い顔が白く清潔な施術着に映えている。
『お書き頂けたようですね。では拝見いたします』
神向寺が加奈子の回答を無言のまま目で追っている。ときおり顎に指を当て何かを考えているようだ。
ひとしきり問診票を読み終えた男が口を開く。
『加奈子さん』
加奈子は突然下の名前で呼ばれたことに驚き、ピンと背筋を伸ばした。
『加奈子さんはご主人との関係にご不満がお有りなのですね、、』
神向寺は加奈子に同情するような切ない表情で彼女に尋ねた。
「はい、、すれ違いの生活で夫婦らしいことは全然、、」
『お察しします、、今日は短い時間ですがそんなことは一切忘れてリラックスなさってください』
「、、はい、よろしくお願いします」
加奈子はこの神向寺という男に夫にはない紳士的な優しさを感じ、次第に心を許しはじめていた。
加奈子はマッサージを受けるため神向寺を奥の寝室へと案内した。
つづく
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