ピンポーン
20:00、予約時間ちょうどに玄関のベルが鳴った。
加奈子はその音にビクッと反応し体を硬くさせた。自分の意志で予約をしたものの、いざとなると躊躇して動けない。
ピンポーン
もう一度ベルが鳴る。
加奈子は決心して玄関へと向かった。
ドアを開けると、そこには加奈子よりも少し年上と見られるスーツ姿の男が立っていた。手にはマッサージ用具と思われる大きな手さげ鞄を提げている。
『こんばんは、ご依頼頂いた者です』
男は近所の目を気にしてか、小声で挨拶をした。加奈子もまた主婦達に見つかることを恐れ、彼をすぐに玄関の中に招き入れた。
改めて男が自己紹介をする。
『はじめまして、神向寺と申します。本日はご依頼頂きましてありがとうございます』
彼は電話と同じ声で丁寧に挨拶した後、深々と一礼した。
てっきり中年の按摩師のような男が来ると思っていた加奈子は少し拍子抜けしていた。
「どうぞ、こちらへ、、」
『それでは失礼いたします』
男は脱いだ靴をしっかりと揃えてから室内にあがった。
リビングのテーブルに向かいあって座る加奈子と神向寺。
2人の間に少しの緊張感が漂っている。
『本日は2時間のコースで承っておりますが、お間違えないでしょうか?』
「は、はい、、」
『簡単に施術内容をご説明いたしますと、はじめに問診票を書いて頂いた後、前半の1時間は十分にリラックスして頂くためにアロマオイルを使ったマッサージを行います。後半1時間はお客様のご希望に合わせたスペシャルマッサージをお楽しみください』
「スペシャル、、ですか?」
『はい、“スペシャル”で“ゴージャス”な性感マッサージでございます』
「はじめてなので、緊張していて、、」
『はじめは皆さんそうですよ。徐々にリラックスしていきますから、ご心配なく』
「はい、、わかりました」
『それでは、はじめにこちらの問診票をご記入頂けますか?』
男が1枚の用紙とボールペンを加奈子に差し出した。
『ご記入頂いている間に施術着に着替えたいのですが、脱衣所をお借りしてもよろしいでしょうか?』
「ええ、廊下の途中にバスルームがありますから、そちらを使ってください」
『ありがとうございます。それでは一度失礼いたします』
そう言って神向寺は施術着に着替えるため脱衣所に向かっていった。
加奈子は渡された問診票を記入するためにペンを取った。
つづく
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