家事がひと段落した午後、郵便受けを見に加奈子が階段下に出ると、いつもの見慣れた顔ぶれが既に輪を作っていた。ひとりの主婦が加奈子の姿を見つけ声をかけてくる。
「あら、加奈子さん。ちょうど良いところに来たわ。ねぇ、こっちにいらっしゃいよ」
加奈子は本心を隠すように無理に笑顔を作り、その輪に加わった。
「こんにちは、どうされたんですか?」
「今日ね、うちのポストにこんなチラシが入ってたのよ。ちょっと見てよ、これ」
加奈子が覗き込むとチラシにはこう書いてあった。
《女性向け派遣マッサージ。欲求不満の貴女、本当の自分を解放してみませんか?》
見かけこそ健全な写真が使われたチラシだったが、そのいかにもな文面から性的なマッサージであることは容易に想像がついた。
「もう、こんなチラシ入れられても困っちゃうわ。苦情ついでに電話しちゃおうかしら 笑」
その主婦は迷惑がっているようでいて、まんざらでもなさそうな言い方だった。
加奈子といえば、苦笑いを浮かべながら話題が自分に降りかからないようにやり過ごしていた。
自宅に戻った加奈子であったが、先ほどのチラシのことが頭から離れなかった。
気が付けばスマホを手に取り検索していた。
《派遣マッサージ 女性向け》
いくつかそれらしいサイトがヒットした。
(へぇ、そういうお店ってけっこうあるんだ、、)
加奈子は無意識にサイトを見比べ、どの店が良さそうか吟味していた。
(私だって、、たまにはストレス解消しなくっちゃ、、)
加奈子はそう自分に言い訳をし、シンプルで洒落たサイトの派遣マッサージ店に電話をかけた。彼女の予想に反し電話口の声は紳士風で丁寧な口調だった。
「こ、こんにちは、、はじめてなんですが、、」
「、、はい、、そうです、、あの、、今日の夜は空いてますか?」
「はい、、それじゃあ、お願いします」
事務的でことのほかすんなりと予約が済んだ。
加奈子は溜息をついた。
その溜息には期待と不安が入り混じっているようだった。
予約は20時、2時間のコースで依頼した。
それまでの時間、加奈子は立ったり座ったり、テレビを点けたり消したりと落ち着かない様子だった。
予約時間の30分前になり、加奈子はバスルームへと入った。来てくれるマッサージ師に失礼のないようにと昼間かいた汗をシャワーで流す。
30代前半、少しずつ艶の出始めた加奈子の柔肌にシャワーの湯が滴り落ちる。
首筋、肩、胸、腰、尻、脚と上から下へ手のひらを滑らせていく。最後に股間に手を伸ばすと、そこは既にヌメり気が出ていた。
(やだ、、私、期待しちゃってる、、)
加奈子は自分に恥ずかしくなった。
シャワーから出た後はナチュラルに化粧を済ませ、部屋着にしている黒のコットンワンピースに着替えてマッサージ師の到着を待った。
時刻は19:50。
そのときまで間もなくだった。
つづく
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