パーティー2
「見学だけでもいいから、一度、おいでよ。普通のホテルだし、怖かったら帰ってもいいし」ママ友のアサミの誘いは、いつものようにフランクだった。
「じゃあ、お茶だけする感じで・・・」レイナは会話の流れを止めない程度に返事をした。無下に断ると、今後のママ友関係が気まずくなるのでは、といった尤もな理由で自分を納得させながら。
しかし、今朝は違った。身につける服をどうしようかと考えながら、レイナは胸を高鳴らせていた。
レイナは人妻だ。人妻らしさは服に表れる。世間、旦那、姑。あらゆる目線は、人妻らしさを要求し、自らもそれに順応していた。だが、今日は違った。平日の昼間の変身願望が服に表れる。
だが、過剰に女の出すのは危険だ。隙はつくらない・・・ レイナは自分に言い聞かせた。
ギリギリのところで選んだのは、くびれが強調されるタイトなロングスカートだった。上半身はシンプルな白Tシャツだ。
「このドレスコードなら、あのホテルでも大丈夫かな」レイナはなんども反芻した。私は淫乱じゃないから・・・
「レイナさん、ちょっと普段と違うね」ママ友のアサミは少し挑発する感じでいった。
「そんなことないよ」
虚言だった。男が興奮するのは、くびれから尻にかけての、肉感のある曲線であることを、レイナは経験から知っていた。
薄手でタイトなロングスカートは、溢れ出る雌の匂いを隠しつつも、尻の肉感にアクセントを持たせる武器だ。
過去に経験した男はみんなそうだった。後背位のとき腰に手を添え、尻を撫でることで興奮していることを。
街中でもそうだ。振り返る男たちはみなくびれから尻を見ている。そんなときレイナは、わざとTバックを身につけ、男が尻のラインを妄想していることを想像して、楽しむのだった。
そんな楽しみは人妻ではできない。だが、今日は違った。ホテルへの道すがら、スーツに固めた男たちの目線が、下半身に注がれているのを確認し、レイナはそれを存分に楽しんでいたのだ。
待ち合わせは港区の外資系のホテルだった。往来する八割は外国人。日中は一室を商談に使うのだろうか、ビジネスマンの行き来が多い。あとは、長期滞在の観光客。
「初めまして。レイナさん」
アサミの隣にいたのは主催者の男二人だろうか。
「竹内サトルと言います。アサミさんのお友達なら大歓迎です」
男の一人が話しかけた。四十歳前後のスタイルの良い男だった。レイナ達より一回り年上だ。
「すごく可愛いし、スタイルもいいですよね」
適度な世間話しを挟みながら、緊張をほぐしていく。
きっと、サトルはそうしながら、品定めをしているのだろう。この人妻をどうやって導いて、あの世界に漬けてやるかを。
レイナはそう妄想しながらも、平常心を保つ努力をしていた。
「じゃあ、行きましょうか」アサミとサトルは行楽地へ誘うような軽い言葉で、レイナを促した。
ロビーの天井は高い。昼下がりの強い日差しが空から差し込む。今年の夏の日差しは透明で強い。日常にありふれた光、だが今日は少し違って見えた。レイナは意を決した。
18階のスイートルームへのエレベーターに乗り込む。
扉が開き廊下に降りる。もう日常の光は差し込まない。別の世界だ。
引返るなら今が最後だわ・・・ レイナの足は少し震えていた。
その震えは緊張からくるものなのか、恐怖からなのか。もしかして、背徳感なのか。いずれにせよ、レイナにとって生まれて初めての感覚だった。
あの扉の向こう・・・何があるの?
一度だけだから・・・レイナはそう言い聞かせて、震える足を前へ押し出た。
「カチャ」 ルームの内鍵が回された。
※元投稿はこちら >>