リアス式特有の起伏の多い地形が、和也の脚を鈍らせる。
それでも彼は吹き出る汗を散らしながら目印となる灯台を目指して走り続けた。
無我夢中で走り続け、ようやく灯台のある岬へとたどり着いた。
その岬の先端に海を臨み佇む女性の後ろ姿が見えた。
『美咲さん!』
和也が大声で彼女の名前を叫ぶ。
その声に反応した美咲がゆっくりと振り返る。
「、、天野さん、、どうしてここへ?」
『はぁ、はぁ、海女小屋で聞きました、、ここにいるって』
「そう、、」
そう一言だけ呟くと、美咲はまた海の方を向く。和也はどことなく物憂げな美咲へと近寄った。
『美咲さん、、今日が亡くなった旦那さんの命日だったんですね』
「ええ、、」
「ここならあの人からも見えると思って、、」
「結局、遺体はあがらなかったんです、、だから今もあの人は海にいるの、、」
「お墓に入れるお骨もないから、、この灯台がお墓代わりなんです、、」
「昼も夜も海に生きる人達を見守ってくれてる、、」
「あの人もそんな人でした、、」
美咲が淡々と話してくれた。
その目は涙で潤み、下瞼から今にも雫がこぼれ落ちそうだった。
和也は美咲を背中からそっと抱きしめた。
彼女の肩が小刻みに震え、泣いている。
和也は美咲が泣き止むまで、ただ黙ってキツく優しく抱きしめ続けた。
つづく
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