翌朝、和也が目を覚ました頃には美咲の姿はもうなかった。
結局、昨夜彼が寝付いたのは朝日で空が白み始める頃だった。目を閉じると美咲と客の行為が脳裏に浮かび、興奮と混乱とでなかなか眠ることができなかった。
1階のダイニングテーブルに朝食が用意されていた。そばに1枚のメモが書き置きされているのを和也は見つけた。
《先に出ます。朝ご飯食べてください》
それを見た和也は用意された朝食には手も付けず、メモ紙を握りしめ急いで港の海女小屋へと駆け出した。
丘から下る坂道を和也は転けそうになりながらも懸命に走った。
海女小屋にたどり着き、和也は美咲の姿を探した。海女の婆さん達が彼に気付き声をかけてくる。
「おや、兄ちゃん、今日も手伝いさ来てくれたんかい?」
「なぁ、昨日は美咲ちゃんとこさ泊まったんだべ? どうじゃった? まぐわったんかいな? 笑」
『はぁ、はぁ、美咲さんは? 美咲さんはどこですか?』
婆さん達の声を無視して、和也は息を切らしながら美咲の居場所を尋ねた。
「今日はまだ来とらんが、一緒じゃないんか?」
『そんな、、朝起きたらこんな書き置きがあって、てっきりここにいるのかと、、』
「はぁ、じゃったら墓参りかのぉ、、今日は亡くなった旦那さんの命日じゃて」
『命日、、ですか』
「美咲ちゃんも気の毒にのぉ、まさか盆の入りに旦那さんばあの世さ連れてかれちまって、、」
『そうだったんですか、、あの、どこなんですか? そのお墓って』
「ほれ、遠くさ白い灯台が見えるじゃろ? ちょうどあの岬の辺りじゃったか、、」
和也は婆さんが話し終えるのを待たず、その灯台に向かって再び駆け出した。人の足では容易く辿り着けない距離であることは分かっていた。それでも向かわずにはいられなかった。
つづく
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