プルルルル..
プルルルル..
プルルルル..
深夜、和也は電話の着信音で目が覚めた。慌ててズボンのポケットからスマホを取り出すも、そこには着信履歴すらなく画面は真っ暗なままだった。
その音は下の階から聞こえてくる。
1階にある民宿の固定電話のベルが鳴っているようだ。
しばらくして着信音が鳴り止み、美咲の話し声がドア越しに聞こえてきた。
「はい、民宿 岬です、、え?これからですか?」
「だめですよ、今日は他のお客さんが来てるから、、無理言わないでください」
「東京から来たライターさんですって、、はい、素泊まりのお客さんです」
「ええ、、いつもの部屋は空いてますけど、、」
「、、分かりました、、はい、、お待ちしてます」
宿泊予約の電話だろうか、しかし時刻は深夜1時をまわっている。こんな時間から泊まりに来る客などいるのだろうか。
ほどなくして遠くから車のエンジン音が聞こえ、その音は民宿前の道路脇で止まった。和也は灯りの消えた部屋の窓から少しだけ顔を出し、その音の主を確かめようとした。
1台の白い軽トラックから中年の男が降りてくる。見たところ観光客ではなさそうだ。男が民宿の玄関の方へまわったところで和也の視界から消えた。
するとすぐにガラガラと玄関の引き戸が開き、美咲が出迎える声がした。
『よぉ美咲さん、すまねぇな、こんな時間によぉ』
「上で他のお客さんが寝てるから、、静かにしてくださいね」
『ああ、分かってるって。それより、なぁ、今日は風呂なしですぐ頼むわ』
「、、分かりました、、2階の奥の部屋にどうぞ、、」
すると、美咲と客の男が軋む階段を上ってやって来る。和也は息を潜めながらドアの向こうを通り過ぎる2人の足音を聞いていた。
(客室まで来るってことはやっぱり泊まりのお客さんなのか? さっき風呂なしでって聞こえたけど、ただ寝るためだけにわざわざここへ??)
和也は状況が掴めずにいたが、それはすぐに分かることとなる。
つづく
※元投稿はこちら >>