海女小屋の戸締りを終え、和也と美咲は茜色から濃紺色に変わりつつある夕暮れの道を2人で歩いて民宿へと向かった。
『なんだかすみません、結局お世話になることになってしまって、、』
「いえ、気になさらないで。ただ食材とか何も準備してないから、あり合わせのものしかお出しできませんけど、、」
『全然かまいませんよ。さっきのお婆さんも言ってたけど、ほんとに寝床だけあれば十分なので』
和也は本音で寝場所があるだけありがたいと思っていた。
少し間を置いて、彼はずっと気になっていたことを美咲に尋ねてみた。
『あの、、美咲さん、、旦那さん、亡くされたんですか?』
「. . . . .」
『あっ、ごめんなさい、なんか変なこと聞いちゃいましたね、、忘れてください、、』
「、、そうなんです、、2年前海の事故で。亡くなった主人も漁師だったんです。それで私も一緒に働きたくて海女さんを始めて、、、」
美咲が遠くの空を見つめながら静かに語ってくれた。和也は気の利いた言葉が見つからず、ただ黙って聞いていた。
10分ほど坂道を登っていくと、海を見おろす丘に出た。
美咲の民宿はその丘にあった。
入り口に木彫りの看板が立っている。
“民宿 岬”
民宿というだけあって、外観は田舎の古い一軒家とそう変わらない。まさに民家の宿だ。もちろんホテルのようにフロントなどあるわけもなく、和也は狭い玄関から中へと上がらせてもらった。
室内は昭和の雰囲気そのままだった。
『うわぁー、なんだか懐かしいなぁ、俺の実家もこんな感じだったのを思い出しますよ』
「この家、亡くなった主人のお爺さんが建てたお家だから、もうあちこち傷んできちゃってて、、」
たしかに美咲の言う通り、廊下を歩くたびにギィギィと軋む音がする。
「えっと、2階が客室になってるんです。さぁこちらへどうぞ」
彼女が先に階段を上る。和也はその後をついて急な階段を2階へと上っていく。彼がふと顔を上げると目と鼻の先に彼女の丸い尻があった。一段上がるたびにやや大きめのその臀部が左へ右へ彼を誘うように揺れる。それに見惚れた彼は思わず階段から足を踏み外してしまった。
次の瞬間、彼の視界が不規則に回転した。
ドドドドドッタァーン!!
彼は見事に階段から勢いよく転げ落ちてしまった。幸いまだ登り始めの低い位置からだったので大事には至らなかったが、腕に少し痛みが走った。
『イテテテテ、、、』
「だ、大丈夫ですか?!」
美咲が階段から駆け下りてきてくれ、和也の腕の具合を心配し今にも泣き出しそうな顔をしている。
「やだ、どうしよ、、もし骨が折れちゃったりしてたら、、」
『だ、大丈夫です。ちょっと打っただけですから。ほら、ちゃんと動きます、、あっ、イテテ、、俺ってほんとマヌケだなぁ、ハハハ』
和也の力のない笑いが余計に間抜けさを際立たせていた。
彼はなんとか立ち上がり再び階段を上る。今度は美咲が優しく横に付いてくれた。
2階には宿泊客用の部屋が2つ。
「こちらの部屋を使ってください」
美咲がドアの開いている手前の部屋を指し和也を通す。
彼は一瞬、ドアが閉まったままの奥の部屋が目に入ったが、さほど気にも留めず案内された部屋に入った。
つづく
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