和也の手伝いの成果もあってか、漁具の手入れも無事に終わり、海女達は帰り支度を始めている。
「兄ちゃん、今晩どこ泊まるんだい?」
ひとりの婆さんが何気なく和也聞いた。
そこで和也はハッとした。手伝いに夢中になっていたせいで、今晩泊まる宿の手配をすっかり忘れていたのだ。
『うわぁ、しまった、、最悪だ、、』
ここへ来るときタクシーを拾った駅前に、寂れたビジネスホテルが一軒あったのを思い出した。彼は急いで電話番号を調べ空室を確認したが、こんなときに限ってあいにくの満室。
絶望感に打ちひしがれる彼の側でひとりの婆さんが美咲に尋ねた。
「美咲ちゃんとこ、民宿やっとったよねぇ?」
「え、ええまぁ、予約があったときだけ開けてますけど、、」
「兄ちゃん、良かったなぁ、今晩は美咲ちゃんとこさ泊まらせてもらいな。ね!ミサキちゃん、かまわんよね?」
「そ、そんな、、急に言われても、、今日は予約がなかったから、何も準備できてないですし、、」
「なぁに、若い兄ちゃんじゃから、適当に寝床だけ作ってやったらええのよ」
そんなやりとりから半ば一方的かつ強制的に和也は美咲の営む民宿に世話になることになった。
和也に下心がないわけではなかったが、それよりも純粋に今晩の宿が確保できたことにホッとしていた。
つづく
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