五 久しぶりの他人棒
とにかくその男はよく喋った。
ハンドルを持ちながらこっちばかり見ないでよ、と助手席で亜希子は思った。
こんな綺麗な奥さんに出会えるなんて、から始まって、自分は50歳前半だとか、酒店を3店経営しているだとか、5年前に奥さんと死に別れてからは風俗店には行かなくなったとか、生活感のある素人の人妻さんが一番だとか、私にはどうでもいい話ばかり。
それにしても、チビでデブでハゲのキモイ親爺だった。
屈辱感と嫉妬を味わうためにはイケメンはだめだ、不細工な男に限ると夫は言ってたけれど、ほんとによくこんな男を探してきたものだと感心した。
WEBサイトで見つけて連絡を取り合うのは危険が大きすぎると言って、昔からある老舗の夫婦交換マニアのための雑誌から、単独さん希望コーナーに応募して、見つけたんだとか。ずいぶんアナログな方法。
やがて、車はラブホテル街のとあるホテルに吸い込まれていった。そこは周りのホテルに比べて一段と豪華な外観をしていた。亜希子はちょっぴり満足を覚えた。
ヒールを脱いで部屋に入ると、明かりを暗くしてねと男に頼み、黒のパンティストッキングを脱ぎ、次に花柄のノースリーブのワンピースを脱いで、真っ赤なレースの下着だけの格好で、その不細工の前に立った。つるバラ模様の刺繍の隙間からレース越しに見える亜希子の白い肌が艶めかしい。
男が、ゴクンと唾を飲み込む音が聞こえた。
さあ、不細工さん、普通なら、あなたが一生かかっても抱けない女をこれから抱けるのよ、私を満足させないと承知しないわよ、いいわね……、亜希子は挑むような気持ちで、仁王立ちになっている不細工男のベルトを緩めズボンとパンツを膝まで降ろし、自分は膝立ちになって男の腰を両手で掴むと、目の前で既にそそり立っている男のもの(・・)に唇をつけ舌を這わしはじめた。
亜希子が出かけてからまだ30分しかたっていない。男と上手く出会えたんだろうか?
いっそ、携帯で連絡してみようかと思ったけれど、それが引き金になって里心をつかせては元も子もないと思い止めにした。
帰ってくるまで3時間ぐらいはかかるだろうか、いや、男が2回戦、3回戦を挑んでくればもっと遅くなるかもしれない。
テレビを見ても雑誌を読んでみても何も頭に入ってこない。早ければ今頃もう交わっているかもしれない。あられもない亜希子の痴態を想像するだけで激しく勃起してくる。
どうしようもないので、ビールを買いに行くことにした。普段家では酒を飲まない我が家ではアルコール類の買い置きはない。
コンビニ店のガラス越しには、これ見よがしに成人向け雑誌が外からでも目に入るように陳列されていた。“他人棒に狂う人妻たち”、“お願い、後ろから犯して”など刺激的なタイトルがつけられた雑誌が並んでいる。そう、まさに今、亜希子は他人棒に狂っている最中だ、ひょっとしたら獣みたいで嫌だと言っていた後背位で犯されているのかもしれない。
また、勃起してくる。
すれ違うコンビニの客に、今、妻がこれをやっているんだと叫びたい衝動に駆られた。
結局、ビールでは軽すぎると思い、ウイスキーの小瓶を買って家に戻った。
玄関のドアが開く音で目が覚めた。ウイスキーが効いて寝入ってしまったらしい。
時計に目をやると午後の6時、亜希子が出て行ってからちょうど5時間になる。
帰ってきた!
僕は慌てて跳ね起きて玄関先へと向かった。
玄関の薄明かりの中に亜希子が見えた。ほんのり上気しているようにも見えた。
出かけたときのままの服装で帰ってきたけれど、他人を受け入れたその身体は変わっているはずだ。
僕は亜希子が愛おしくてたまらず、お帰りと言う間もなく、妻を抱きしめた。
亜希子は何も言わずじっと抱かれたままでいる。しばしの沈黙。
僕はやっと声に出すことができた。「彼に抱いてもらえたかい?」
亜希子は「うん」と小さく頷いた。
ドクッ、ドクッと僕の心臓が早鐘のように脈を打ち始めた。
「よかったかい?感じたかい?」
そう聞いたとき、亜希子は堰を切ったように話し始めた。
「あなた、ごめんなさい。私……、あんな不細工な男に……3回も身体を許して……、でも、そのたびに絶頂まで達しちゃったの。ほんとにごめんなさいね、でも……本当にすごく感じてしまったの、今までなかったくらいに、気がついたら自分から彼におしりを突き出してたわ。彼も悦んでバックから挿入してくれたの……、あなた、本当にごめんなさい」
(続く)
※元投稿はこちら >>