二 寝室の会話
亜希子は僕より2歳年下の33歳。2年前に転職して今の広告代理店に勤務している。
お互い帰宅時間が不規則なため、愛し合うのは土曜の朝、まどろみの中と決めている。
その時間をいつからか、どちらからでもなく癒やしの時間、ヒーリングタイムと呼ぶようになっていた。
一月ほど前のヒーリングタイムに、僕は思いきって亜希子にあることを確かめてみたくなった。
これまでもそんな気持ちになったときもあったが、何やら恥ずかしくて切り出せなかったのだが、今日こそは聞いてみようと意を決したのだった。
「ねえ、亜希子」 彼女の中でゆっくり動きながら僕は尋ねてみた。
「うん? なによ?」 絶頂への道のりを邪魔されたのか、少し不機嫌そうだ。
「あのさ、今まで誰かと浮気したこと、ないのかい。」
「何でそんなこと聞くのよ。するわけないじゃない。私にはあなたがいるし、あなたを愛しているし、それに今もこうやって愛してもらっているっていうのに。」 馬鹿なことを言わないでとばかりに、怒ったようにそう言うと亜希子は僕から離れようともがき始めた。ごめん、ごめんと言いながら、少し動きを早め、亜希子が再び感じ始めるのを待った。吐息がもれるのを確かめてから切り出した。
「だってさ、広告代理店って派手な感じがするじゃない。なので、そういう誘惑も多いんじゃないかと心配でさ。」
「ない、ない。そんなのテレビやコミックの世界のお話……、ああ、もうやめて…、そんな話……。」予想したとおりの返事だったが、ここで断念するわけにはいかない。可能性を確かめるんだ。一段とギアを上げ責めながら僕は続けた。
「わかったよ。でも、言い寄られたり誘われたことはあるんだろう?」
「……、それぐらいは……、誰だってあるでしょ…、お願い、もう止めて。」
「どんな奴に誘われたんだい?」
「…、広告主の社長さんとかよ……。」
浮気までには発展しなかったものの、誘われたことはあると認めた。それも複数の人間からあったらしい。僕の妻を狙っている奴がいて、妻もそれを知っていて、毎日出勤しているのだ。どんな気持ちで亜希子は仕事をしているのだろうか。僕は激しい嫉妬を感じ、亜希子の中で僕のものは最大限にまで膨張している。
「どんな気分だった? 誘われたときは。」
「…、私は商品じゃない…広告の内容で評価するべき…、ああ……」 もうたくさんとばかりに、亜希子は最後までしゃべり終わる前に、僕の口を塞ごうと唇を寄せてきた。形の良い、柔らかな唇が僕の唇と重なった。
明らかに亜希子も興奮している。僕に抱かれながら、広告主たちとのセックスを想像しているのだろうか? 限界が近づいてきた。そして、フィニッシュと同時に亜希子にあのことを告白することを決心したのだった。
(続く)
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