満天の星空に見惚れていたそのとき、勢いよく扉が開く音がしました。
と同時に、賑やかで図太い男性の声が露天風呂に響き渡ります。
わたしは咄嗟に岩陰に身を隠しました。
「えっ? なに? ここ女湯じゃないの? どうして男の人が入ってくるの?」
予想外の事態にわたしはひどく混乱しました。
...そう、この露天風呂は男女混浴だったのです。
大浴場は男湯と女湯で別ですが、内湯からこの混浴露天風呂にはどちらからも入れるつくりになっており、わたしは不覚にもタオルも持たず無防備なままに混浴露天風呂に入ってきてしまったのです。
ふと、電話で予約を取ったときに受付の方が言った言葉を思い出しました。
「案内はご確認されましたか?」「よろしいですね?」
きっとそれは混浴風呂であることを了承したか?という意味だったのでしょう。
はじめに部屋を案内してくれた仲居さんも、混浴のことを説明してくれていたのかもしれません。
わたしは岩陰に息を潜めたまま、男達の話し声に耳を傾けました。
『混浴だっつーから来たのに、誰も入ってねーじゃねーかよ!』
『部長、そんなに怒らないでくださいよぉ~、そのうち、あの宴会場にいたおばあさんが入って来ますってぇ~』
『アホか!ババァの裸なんて見たら悪い夢見ちまうわ!』
『そういえば部長、宴会場に若い奥さんもいましたよねぇ』
『あ~そういや奥の方に座ってたなぁ、ボインちゃんでなかなかそそる身体つきしてたな』
『でも、そんな人が混浴風呂になんて来るわけないっスよねぇ~』
(男性一同大笑い)
「きっと宴会場にいた人達だわ... 若い奥さんとかボインちゃんて...わたしのこと?」
男性の数は声が聞こえるだけでも5~6人はいるようです。
内湯でのぼせた身体を東屋で冷ましているようで、わたしが隠れている大きなお風呂にはまだ近づいてはきません。
「お願いだから、そのまま戻っていって...お願い...」
わたしは神様に祈るような気持ちでそう繰り返しました。
『それにしても客少ねーよな』
『いまどき混浴温泉になんて来る物好きなんていないんですかねぇ』
『あの~部長、誰もいないんだったらもう部屋に戻りましょうよぉ』
「お願い...戻って...」
『まぁ、露天風呂も久々だしたまにはいいじゃねーか。どうせお前ら、部屋に戻っても有料放送でAV見るだけだろ? おっと..少し冷えてきちまったから、俺はあっちのデカいとこ入るぞ、なぁお前らも来いよ』
そういうと、男達がぞろぞろとこちらに向かってやって来るのが近く声と気配で分かりました。
「もうダメ...見つかっちゃう...」
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