夜通し弄ばれたわたしは意識が朦朧としながらも精液まみれの裸体を冷たい石の床に横たわらせたまま、男達の話を聞いていました。
『おぅお前ら、見つかる前にそろそろずらかるぞ』
『この奥さん、どうするんです?』
『ほっとけ、そのうち誰か来んだろ』
空が白み始め、部長の男が少し焦ったように言うと、部下の男達も後に続きぞろぞろと露天風呂を出ていく姿が見えます。
わたしはぐったりと身体を動かすこともできずその場に置き去りにされ、意識が次第に薄れていきました。
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目を覚ますとわたしは6畳ほどの小さな部屋でベッドに寝かされていました。身体は裸ではなくきちんと浴衣を着せられていました。浴衣の下には、替えに持ってきていたあの純白の下着を着けています。
わたしは混乱しました。
どうやって下着や浴衣を着たのか、どうやってここまで来たのか、まったく思い出せません。
そのときドアが開き、仲居風の中年男性が入ってきました。
『あぁよかった、やっとお目覚めになりましたね』
「あ..あの..ここは..?」
『ご安心ください、旅館の医務室です』
「わたし..どうやってここへ..?」
『私が朝の見回りで露天風呂に入ったら、おひとりで倒れられていたんです。裸でしたし、ほんとに驚きましたよ』
「あなたが..わたしをここへ?」
『ええ、意識も朦朧としていて身体もだいぶ冷えておられましたので、なんとか担いでここまでお連れしました』
「あ..ありがとうございます..」
『たいへん失礼かとは思いましたが、お召しの下着と浴衣は私が着けさせて頂きました』
わたしは助けてもらったありがたさと同時に、この男性に自分の裸を見られてしまったという恥ずかしさがこみ上げてきました。
お礼を言って早く家族の元に戻ろうとベッドを降りようとしました。が、左手首に痛みが走りました。
「痛っ...えっ..なに..どういうこと?!」
わたしの左手首には手錠が嵌められ、その先はベッドの脚に括り付けられていたのです。
男性が静かに話し始めました。
『お客様はあの場所でたいへんな目に合われました。そのことをご家族に話されたり、ましてや警察沙汰にされてしまっては当旅館としても死活問題になります。よって、このままお帰しするわけにはいかないのです。それが当旅館の規則なのです』
「規則って..そんな..わたしは絶対誰にも言いませんから..お願いします..家族の元に帰して...」
わたしは泣いて懇願しましたが、その男性は《規則》の一点張りでまったく聞く耳を持ってくれません。
『そして、これも規則なのですが、お客様のように性被害に遭われた女性は当旅館が責任をもって雇用させて頂きます』
「こ..雇用って...」
『はい、これからは当旅館の仲居としてお勤め頂くことになります。もちろん配膳やベッドメイクといったお仕事ではありません』
「じゃあいったい..」
『当旅館は表向きは普通の温泉旅館を営んでおりますが、裏の看板は政財界のVIPがお忍びで姫遊びをなさる場所として長年ご愛顧頂いております。お客様もそこでコンパニオンのひとりとしてお勤め頂きたいのです。もちろん収入も保障致しますし、お得意様からのおひねりも相当な額だと聞いておりますのでご安心くださいませ』
「それって..風俗じゃあ..?」
『いいえ、あくまでもコンパニオンですから、お得意様とお酒を飲んで頂ければよいのです。その先の展開はお得意様がお決めになられます。当旅館は一切関知致しません』
「そんなの嫌よ..わたしを家族のところに帰して!」
『そのことですが、たいへん申し上げにくいのですが、ご家族様は帰って行かれました』
「えっ..そんなこと..ありえないわ..」
『本当です。お客様はご家族が寝ている隙に他の男性と関係を持ち、燃え上がる不倫の恋の果てに駆け落ちした、ということにさせて頂きました。相当お怒りになられておりましたが、何卒ご了承くださいませ』
「なんなのそれ..信じないわ」
『では、、行ってみますか? お泊りになられたお部屋に』
仲居の男性に連れられ、夫と息子が待つであろう部屋に向かいます。
部屋に入ると男性の言う通り、夫と息子の姿はありませんでした。
あるのは、わたしのバッグと握り潰されたあの書き置きだけでした。
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「当旅館へようこそいらっしゃいました。コンパニオンのゆきと申します。一晩ご一緒させて頂きます。どうぞごゆるりとお愉しみくださいませ...」
わたしはここ《艶美の宿》で、毎夜淫らな接待を続けています。
おわり
長らくお付き合い頂きありがとうございました。
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※登場人物、固有名詞、場所などはすべてフィクションです。
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