その日、あゆみと僕との間には、得たいの知れない緊張がありました。9フレを終え、あゆみさんが200点オーバーのチャンスだったのです。
会社のボウリング大会でも、240点出した先輩がいました。しかし、別チームだったため、目の前で200点を見るのは初めての経験となります。
僕のそんな緊張をよそに、10フレの1投目で難なく200点オーバーをしてしまったあゆみさん。僕も思わず、『すげー!』と立ち上がります。
喜んだ彼女は、『やった!やった!』と言って、僕に抱きついて来たのです。初めての彼女とのハグでした。
嬉しそうに彼女を抱き締めますが、よくよく考えればどこの誰かも知らないただの他人なのです。それでも、抱き締めてしまっていました。
『よかったぁ~!緊張したぁ~。』と、7フレ辺りから始まった変な緊張から解放された彼女は、本音を漏らしてしまうのでした。
緊張が途切れたのか、最後は2投で8本しか倒れず、スコアーは崩しましたが、それでも200点オーバーが記されました。
『次は、さとる君の番よ~。』と言われ、まだまだ先のことだと思うのです。この時、最高が182点ですが、残りの20点が大変なんです。
『200点取ったら、美味しいもの食べに行こう!』と約束までされるのでした。ところが、それをアッサリとクリアーをしてしまう僕でした。
その日、投げるボールに違和感を感じていました。説明は出来ないのですが、いつもと違う感覚なのです。
1ゲーム目が終わり、いつもの130~150点台と変化は表れません。しかし、『なんか、調子いいかも。』とあゆみさんに言ってしまいます。
そして、その言葉通りに第2ゲームで大爆発をしてしまうのでした。投げるボールはことごとくスポットに入り、入れば全てのピンをなぎ倒しました。
7連続ストライクを含め、出したスコアーは驚愕の『232点』でした。終わると身体はフワフワ、地に足がついていません。
『さとる君!すごぉ~!なに、この点!?』とあゆみさんも半分呆れていました。あの悪夢のボウリング大会から、2か月後のことでした。
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