気まずい沈黙と緊張感を保ったまま、僕たちは駅前のファミレスを目指した。恵里奈は僕の後を俯いたままついて来ている。道場から5分程度の道程だが、とても長く感じた。
あれだけ酷い目にあったのだ。いくらそれを助けた相手とはいえ、僕に会うのは辛いだろう。僕は恵里奈が何をされたのかハッキリこの目で見ている。恵里奈の純白のパンティが太ももの辺りまでずり下げられ、男の手が尻を弄んでいた。そんな恥ずかしい姿を見られた相手にわざわざ会いに来たのだ。僕の方が謝りたくなる。
ファミレスに入ってからも、恵里奈は俯いたままだった。僕は自分と恵里奈の分のドリンクバーを頼んだ。4人がけのテーブル席。向かい合って座る。こんなに近く恵里奈の顔を覗き込んだことはなかった事に気がついた。
「大変だったな」
うまい言葉が見つからない。何か声をかけてあげたかったが、こんな言葉しか思いつかない自分が情けなくて恥ずかしかった。
コクリと頷く恵里奈。僕と目を合わそうとしない。これがあの恵里奈なのか?気丈な恵里奈は影を潜め、多分本来の恵里奈が僕の目の前にいる。恵里奈から「話がある」というという事でここに来ているのだが、あれからずっと黙り込んでいる。気まずい雰囲気に耐えられず、僕が口火を切った。
「河田さ。自分を演じるって疲れるよな」
身を固くする恵里奈。
「俺もそうだけど、みんな何かしら自分を演じてる。家族の前の自分と、先生達の前の自分は違うだろ?それを『自分を演じている』って言うなら、演じていない奴なんていないんだろうな。でもさ」
僕は一息入れる。
「俺は俺だし河田は河田なんだよ。自分が好きか嫌いか別にしてね。うーん、それを性根というならそれなんだろうね」
恵里奈の前の自分は誰を演じているんだろう。そんな疑念が浮かんでは消える。僕はこんな説教ができるほど立派な人間じゃない。
「演じる為には自分を認める事も必要だと思うんだ。常に演じていると、自分が何処にいるかわからなくなってくる。
だからさ、河田。演じなくていい場所を作ろう。弱音を吐ける相手を作れよ。もしそんな相手がいなかったら、俺がそれになってやるよ」
麗美さんとW館長の顔が交互にちらついている。僕にそんな事を言う資格があるのだろうか。
恵里奈を覗き込む。恵里奈はうっすら涙を浮かべている。やっと僕と目を合わせてくれた。涙で潤んだ瞳を隠さず、僕を見つめている。小さな声で「ありがとうございます」と言った恵里奈の表情は少し明るくなった様に見える。
恵里奈はなにかを吹っ切るように首を振ると、力強く立ち上がり僕の隣に座った。恵里奈は僕の目をしっかりと見て話し出した。
「三日前、○○先輩と麗美さんが待ち合わせしているのを見たんです」
「うん・・・。え?麗美さんの事知っているの?」
「はい。私、G整骨院に通っていますから」
そうだった。W館長の紹介で、この道場からG整骨院に通っている者が多いのは知っていた。ならば、恵里奈がG整骨院に通っていることは、想像に難くない。
「なんか凄いショックで、あんなこと言っちゃって本当にごめんなさい。私に関係ないことの筈なのに」
恵里奈は続けた。大きく深呼吸して、心のしがらみから吹っ切れた様だ。
「もう何も隠すことないから言っちゃいます。私○○先輩のこと好きです。ずっと前から」
開き直った恵里奈は饒舌になった。正直驚いている僕の反応を見ることなく、そのまま続ける。
「もしあの時先輩に勝つことができたら、吹っ切ることができるんじゃないかって思った。私、失恋したばっかりだったし」
唖然としている僕を尻目に、恵里奈の告白は続く。
「だからかな、ついつい心の声が出ちゃったんです。麗美さんを年増だなんて酷いこと言っちゃったし、先輩を汚れただなんて・・・。その帰り道に反省して。明日稽古に行ったら謝らなきゃって思ってたんです。でも、あんなことになっちゃって。その上先輩に助けてもらうなんて」
恵里奈は一息ついた。
「本当は強くなりたくて空手を始めたはずなのに、私、何にも出来なかった。されるがままに触られて・・・。振り返って『この人痴漢です』って言えなかった。怖かったのに体が動かなかったんです。すごく悔しかった。」
恵里奈はその時まるで決意したかの様に僕を更に強く見つめた。
「先輩、ほんとはもっと悔しいことがあって・・・」
恵里奈が急に僕の手を握り、自分の太ももの上に置いた。
「気持ちよかったんです。あの時・・・」
「酷いことされているのに体が勝手に反応しちゃうんです。それが本当に悔しくて。怖くて止めて欲しいのに・・・。触られる度に」
僕の手を更に太ももの付け根に近づける。
「だから○○先輩。あの汚らしい指で触れられた場所を、先輩の指で清めて下さい。」
あまりの急な告白に、僕は混乱の中にいた。指先の感覚で、スカート越しに恵里奈のパンティラインを触れているのがわかる。紅潮している恵里奈の表情が艶めかしい。
「あの時、男の人に初めて触られたの。初めての人は好きな人に触られたたかったのに」
恵里奈の必死の告白に、僕のイチモツは勃起している。
「お願いします。私を清めてください」
僕は無意識に頷いていた。麗美さんの哀しげな表情が頭に浮かんでいた。
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