『ああ~!夢野さぁ~ん!』とCATVの車の助手席から、香澄さんが手を振っています。『この前、ありがとうねぇ~!』と叫び、その車は立ち去りました。
僕の姿を見つけて、声を掛けてくれたのでした。少し前まではテレビの中の人だったのが、今やその方と知り合いとなり、声まで掛けてくれるのです。
そして、夏祭り。盆踊り日がやって来ました。小さな空き地で、こじんまりと行われる田舎の盆踊り。しかし、もちろんCATVは取材に来られます。
夜7時からなのに、準備の進む6時からカメラは回され、取材をされています。時々、照明がつくと、その光の中心には必ず高橋香澄がいるのです。
さすがに有名人の彼女。お年寄り達には娘のように声を掛けられ、子供の達からは先生のように輪の中心にいました。流石に、これでは僕の出番はありません。
ところが…。飲み物は飲み放題だったために、氷の入れられた大きな容器には大量の飲み物が入れられていました。
僕も一本取ろうと手を伸ばすと、『高橋さんも飲んで!飲んで!』と係りのおばさんが声を掛けます。すぐに聞こえて来たのは、彼女の声でした。
『ありがとう!いいの~?』と言いながら、僕の隣で飲み物を抜いた香澄さん。すぐに、『夢野さんも楽しんでる~?』と声を掛けられます。
僕の存在にちゃんと気づいていたようです。そして、『ああ~、私いかんわ~。お祭り好き過ぎや!』とはしゃぎながら行かれました。忙しい方です。
照明が当てられ、みんなと盆踊りのする彼女の姿がありました。ちゃんと浴衣姿を用意して、ハチマキまでする徹底ぶり。
わざと大きな声をあげたりして、ちゃんとみんなが喜ぶすべを心得ているのです。『ちょっと休憩~!あぁ~、えらぁ~!』と輪から抜けた香澄さん。
再び、飲み物コーナーに現れ、『もう無理~!なんか飲ませて~!』とおばさん連中に声を掛けます。ここでも、コミュニケーションの上手さを見せられます。
『ちょっと持って。』と飲みかけのジュースを渡されました。本気ではしゃいでるのか、これも僕とのコミュニケーションなのかよく分かりません。
ハチマキを締めなおし、浴衣を直します。『また行くの?』と声を掛けると、『ちょっと休憩。最後にもう一回行く。』と答えました。
渡されたジュースを返すと、『踊らんの?』と聞かれます。『見るだけ~。』と言うと、『踊ればいいのに~。』と、しばらく彼女との会話を楽しみます。
そして、最後の総踊りの合図が掛かります。残り15分と言うことです。『行くよ~!』と彼女から合図が掛り、瞬間手を掴まれました。
『行くよ!ほんとに行くよ!』と彼女に引かれ、輪の中に無理矢理入らされました。真面目に踊るなんて、数年ぶりでした。
見よう見真似となりますが、香澄さんに乗せられてしまい、15分間なのに大汗をかきながら踊っていました。
音楽がとまり、盆踊り大会のお開きです。参加をされた皆さんから拍手が起こり、盛り上がります。
拍手を終えた香澄さん、『ちょっと肩かして。』と僕の肩に手を置いて、身体を休めます。
『はしゃぎ過ぎ違う?』とからかうと、『仕方ないやろ~!祭好きなんやから~。』と答えてくれました。
暗闇の中、僕の肩に置かれた彼女の手は、更に僕の手が包んでいたのでした。
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