家の奥に消えた内田さん。僕はといえば、どうしていいのか分からず、お店と家との段差に座り込んでいました。
おばさんの姿が見えるわけでもない。話し掛けれる訳でもない。『黙って帰る。』という選択肢もありましたが、『逃げたら負けだ。』と踏みとどまります。
『タカくんいるー?御雑煮、食べるー?』、部屋の奥から声がしたのは15分以上も経ってからのことでした。誘われたことで、堂々と上がって行きます。
テーブルには、御雑煮が用意されていました。箸も、お正月用のいいお箸です。『作ってくれたの?』と言いながら、おばさんの御雑煮を頂くのです。
母以外の方が作った雑煮を初めて食べました。僅か数軒離れてるだけなのに、家庭の味はこんなに違うのかと思うほど、母のソレとは全くの別物でした。
小さなおせち料理も出され、おばさんも対面に座って食べ始めます。『明日あたり、わたし身体中が痛くなるわぁ。』と山登りの疲れを語るのです。
しかし、『私、ほんと久しぶりの日の出だったわ。』と言うものの、僕が何度も身体に触れたこと、手を繋いだこと、抱き締めたことには触れないのです。
笑顔を作って、僕をもてなしてくれる彼女を見て、大人の女性を感じるのでした。
内田さんは食べ終えたお椀を下げ、すぐにキッチンで洗い物を始めます。山登りのために履いていた、黒のジュージ姿です。
その後ろ姿に、おばさんの年輪を感じます。仕事柄か、少しねこ背気味になっており、ジュージのお尻の部分の肉が少し落ちてしまっています。
その体型から、細いながらもお尻の大きい方なのが分かります。昔から知っていたはずなのに、おばさんのことなど僕は何も知らなかったのです。
綺麗なお顔でごまかされ気味ですが、その身体をよく見ると、やはりおばさんもちゃんと年を取っているのです。
しばらく、洗い物をする彼女の後ろ姿を眺めていました。後ろから抱き締め、『ジュージなら簡単に脱がせられる。』とシミュレーションまでしてしまいます。
しかし、それを眺めながら、彼女に母親や主婦の姿をイヤらしく想像するだけで満足をしていました。僕の頭の中では、洗い物をする彼女はもう全裸なのです。
僕は、帰るタイミングをなくしていました。僅か数軒隣の我が家がとても遠いのです。ここに居たい思いが、『帰ります。』の言葉を出せなくしてました。
『もうちょっと居ていいですか?』と聞いてみました。『いいけど、一回おうちに帰った方が。お母さん、心配してるかも知れないし。』との返事でした。
『じゃあ、一回家に顔だして来ます。また後から遊びに来ていい?』と言うと、『そお。私はいいけど。』と約束をして、僕は帰るのです。
その時に『今度来るときは、裏の方のチャイムを鳴らして。』と言われます。お店の方には外からの呼び出しがないのです。
僕も、この家の裏口の存在など完全に忘れていました。裏は住宅が密集してて、細道を曲がって曲がって、この家の裏口があります。普段は見えないところなのです。
しかし、おばさんには2つの計算ミスがありました。再度訪れる時間を聞かなかったこと。僕も忘れていた、裏口の存在をボクに喋ってしまったことでした。
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