episode 1
つづき-----------------------------------
今夜は、新年を迎えたばかりの静かな夜だ…月明かりに照らされる私と、愛車…振り向くと、後方のマフラーから排気ガスと共に、水蒸気がモクモクと上がって消える…ここは私の自宅から数キロ離れた場所、高速道路の下に隣接する道路(通称下道)にある、とある工事現場の臨時駐車場だ…。
とりあえずタバコを吸いたいので、車外に出た私は、すぐさま着火した…携帯電話で友人に連絡する…電話を終えた私は、後部座席に乗っている妻と、同僚のアルバイト恵(ケイ)君の2人に事情を説明し、すぐ戻るからと言い残し、歩き出す…民家すら無い、あるのは所々にある外灯だけだった…先の交差点を左に曲がると目の前に住宅地が見えてきた…。
(急がば回れだな…こんな山道を選択するんじゃなかった…もう少しだ)
既に歩き出して15分は経過しただろうか…とにかく寒い…。
幸い、山道を降りた場所にコンビニがあるのは以前から知っていた、深夜にも関わらず、連絡が取れた同車種の友人が、純正タイヤ(社外ホイールに交換している)を運んでくれると快諾してくれたのだ…(本当に良い奴だ)…私の車は最近購入していた為に、スペアタイヤ等は無い、車載していたのは、小さなコンプレッサーとパンク修理剤が主な装備品だ…タイヤ側面が切れると修理剤などまったく無意味だと改めて痛感した…。
何故?そんな所に?2人を残し?…理由は単純だ…山道を走行中に、落ちていた鉄板を踏み、タイヤ側面を切ってしまった…しかしながら運良く、まさか高速道路下の隣接道路に、砂利ではあるが駐車場が有るとは…今まで気付かなかった、側面に街路樹があるので見難らかったからかも…(助かった)…他車の通行の邪魔にならぬように入り込み、入り口側面の街路樹横にバックで停める…駐車場の中にはあちこちに資材が散乱されていた…。
この場所に停めれなければ、隣接道路の車道は狭く、離合するにもこの道路幅では困難だったろう…。
さてさて、何故こんな事態になってしまったのか、そもそもの原因は妻にある…ある土曜日の夜、パート先での飲み会…多量の酒に酔った妻は、(チャンポンされたらしい…)、自力歩行が出来ず、携帯から(迎えに来てよ!)と、私は呼び出されたのだ…。
妻から指定された場所で暫く待つ…前方の居酒屋から10人近くの老若男女がなだれ出てきた、(迷惑だろ)と思いながらニヤニヤして見ていると、その中から上司?と思える男性が近寄って来た…私は会釈し、会話を交わす…自宅の方向が同じアルバイトの井上 恵(ケイ)君を送って欲しいと頼まれ承知した…キャッキャッとハシャぐ妻と恵(ケイ)君、話の盛り上がった2人を後部座席へと上司が無理矢理押し込み、サッサと集団共は駅方面へと消えてゆく…気分を害した私に対し、察した恵(ケイ)君が語りかけてきた…。
恵(ケイ)君
『旦那さん…すいません…自分まで送って頂いて…実は自分が奥さんに…酒やビール等、勧め過ぎました…申し訳ありません…。』
なんて謙虚な!良い若者やん!聞いていたとうり、眉のキリッとした彫りの深い顔立ち、まぁまぁのイケメンやんか!と思っていると…妻がもの申す…。
妻
『キャハハ!…んとぅ~…んとねぇ…気にせんでいいよぅ!この人ねぇ…どうせ家でテレビ見るか…寝るか…だからさぁ~…井上君!…別に気にせんでいいよぅ…あははっ!…』
こんな嫁は初めて見る、いつもは吐くか…酔わないか…寝るか…今回は余程の上機嫌なんだろう…ろれつも回らずグタグタである。
恵(ケイ)
『◯◯さん!旦那さん!…すいません…有難う御座います…本当…スイマセン…』
妻
『いいってぇ!いいってぇば!…イケメンは気にしないっ!…イケメンやしねぇ…ドストライクよぅ…フフ…』
正直、私は妻の態度に殺意さえ覚えた(なんて解りやすい奴だ…)。
気を取り直し発進させた…ルームミラー越しに2人を見ると、妻とは相反した態度の、未だ申し訳なさそうに俯きながら黙っている恵(ケイ)君、何というか…旦那の立場からみても、可愛い奴だなと正直思った…。
妻
『ほらぁっ!…だめ!…気にしないっ!…気にしないってばぁ!…ネ!…』
萎縮した井上 恵(ケイ)君に妻がちょっかいを出す、ホッペタを右の指先で摘まみ、引っ張り、自分の方へと傾けた…その後、ゆっくりと恵(ケイ)君の左の肩に頭を持たれた…その一瞬を私は見落とさなかった…と、同時に凄まじい程の興奮と嫉妬が私の全身を駆けめぐるのが解った…。
暫く走り、山道を上がり、ルームミラー越しに後部座席を警戒しながら2人を覗き見る…あまりの仲の良さに私はイライラと嫉妬していた…。
2人に気を取られ、絶賛脇見運転中の私は前方に薄い板のような落下物を発見するも、(まぁ大丈夫だろう)と避けもせず踏んだ途端に(パンッ!!)…と、すぐに車体が傾き、ハンドルを取られて停車…幸い数メートル先に駐車場を見つけ、ゴトゴト車体を揺らしながら入り込んだ…と、ここまでが2人を残し、山道を1人歩く私の経緯である…。
-------------------------------------------------つづく
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