熟事務員 Ⅲ ⑪
どの位の間ボーッとしていたんだろう?。
2人が大判のバスタオルを胸から下に巻いて現れた。
悦子
「俊くんも(シャワー)行ってくる?」
「暖房(浴室の)、付けてあるわよ。」
「着替えの下着もベッドの上に出してあるから。」
「あっ、でもゴメン、しずちゃん じゃなかった、沙織ちゃんのは無いわ、さっき(ゲルマ玉)拭いちゃったから。」
「今日は 無し ね。」
沙織
「えぇっ、そうなんですかぁ。」
俺は2人のそんなやり取りを背中で聞きながら、浴室に向かった。
途中 寝室のベッドの上には、Tシャツとボクサーブリーフが綺麗に畳んで置いてあった。
それに至る経緯は割愛させて頂くが、この2年近く《こだわりの立体裁断 綿100hiromichi nakano》のボクサーブリーフを愛用していた。
悦ちゃんが それと同じ物を準備してくれていた。
その真新しいTシャツとパンツでリビングに戻ると、
同じ様な形の、悦ちゃんが いつも部屋着にしているワンピース姿の2人が居た。
少しサイズが小さい様で、沙織は至るところが パッツンパッツン していた。
左の乳首は あからさま だった。
俺が 沙織の襟足から垂れた 牝紐をツンツンと引っ張ると『あぁん』と身をよじった沙織が
「これって 朱美さんにも付いてるんですか?」
と、聞いてきた。
俺
「まだだよ、彼女には。」
「てか、付けないと思う、彼女には。」
沙織
「反応が悪い(微笑)とか?」
悦子
「そこんところは分かんないけど、付けない方が良いと思う、私も。」
沙織
「どぉしてですぅ?」
悦子
「戻るのよ彼女、年度内で向こうに。」
沙織
「『向こう』って、親会社って事ですか?」
悦子
「そう。」
「(沙織ちゃんは)聞かなかった事にしてね。」
「向こう(相手)の方がね、退職するんだって。」
「退職金 上乗せしてもらって。1年前倒しで。で、下請けの部品工場に行くんですって。」
「でも どぉなのかしら?、これからが御祓よ、彼女の。」
沙織
「そぅなんですかぁ。飛ばされて終わり、とかじゃないんですか?」
悦子
「たぶんね。だって 前の所じゃなくて全然違うとこみたいよ。」
「相手の男だって窓際だったらしいいし、派閥でも浮いちゃってて、飲み会だって声すらかけて貰えなかったらしいわよ。」
沙織
「えぇっ、派閥なんて有るんですか?」
悦子
「そりゃぁ有るわよ。同じ大学出てるとか、誰それの先輩だの後輩だの、って。」
「ウチだって有るわよ。ねぇ俊くん?」
俺
「…らしいね。」
「でも、1年前倒しの定年って言ったら 同い年?ご主人と。」
沙織
「えェェツ?」
悦子
「おバカ!」
「そんな事有る訳ないでしょ。」
「家にも帰って来ないのよ奴は。もし そんなんだったら 付き合ってないわよ朱美ちゃんとなんて。」
沙織
「…ですよねぇ?」
「でも、大変じゃないですかぁ?、もし…。」
悦子
「それは なぁに?、私と俊くんの事 言ってんの?」
「だって 私は覚悟してるもの。」
「出会った以上 別れの日がくるわ、それが どんな形であれ。必ず。」
「努力だってしてるわ。里美さんが選んだパンツ、何店も探して回ったの!シャクだったけど。」
「私だって 私の好みで選んでみたいじゃない?」
「車にわざとピアス落としていったり、キツイ香水付けてみたり。そんなんでアピールして どぉにかなるんだったら、とっくに白黒付けてくれてるわよ。」
「同んなじよみんな、 男なんて自分勝手で。」
沙織
「て、工藤さんも そぅなんですかぁ?」
俺
「おいおい、聞くか普通、本人に向かってさぁ。」
「でも あれだよ、同んなじだよ 俺だって。」
沙織
「…そぅなんですね?」
と、少し寂しそうに言った。
「ここは?、ここは どぅするんですか?」
悦子
「引っ越すわよ、春頃までには。」
「最悪 ワンルームでも 何処でも。」
沙織
「やっぱり そぅなりますよね?」
悦子
「何よ、随分 物欲しそうね?」
「あれかぁ、声出せなくなるとか?、さっきみたいに。」
「何なら あんたが住む?ここに。」
「今は賃貸契約だけど、あんたが35年ローンか何かで買うんなら 家賃の半分くらいで済むかもよ。」
「もぅ殆ど奴の物なんて残って無いし、置いてってあげるわよ、ソファーもベッドも ぜぇんぶ どぉお?」
沙織
「半分て どの位ですかぁ?」
悦子
「そぅねぇ、半分までには ならないとは思うわ。」
「修繕費の積立てとか何とか 別に払わなきゃなんないけど、7万で足りるんじやない?」
沙織
「7万ですかぁ?」
「都内のワンルーム借りたと思えば 払って行けますね。」
悦子
「…でしょう。」
「それにね、何時だって出来るのよ、気兼ねなく(笑)」
沙織
「でも それって、悦子さんも。ですよね?」
悦子
「何言ってんの この子は!、そんなの当たり前でしょ。」
俺
「ゴメンね、盛上がってるとこ悪いんだけど、そろそろ。」
悦子
「あらっ、もうこんな時間ねッ。」
そろそろ19:00になろうとしていた。
悦子
「世間ではね、『まだ土曜の19:00』。」
「でもね、そんな土曜日の こんな時間に 1人で放り出されるの。」
「それが『不倫』。覚えときなさい。」
『自分勝手』な俺には 気の効いた言葉の1つも 見つからなかった。
2人がエレベーターまで送ってくれた。
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