里奈が無事に女の子を出産して6か月が経過した。
名前は健二が由奈と付けた。
健二から見て、里奈似の美人に育ちそうなきれいな顔立ちの子だった。
しかし自分に似ているかというと分からない。上杉や鵜久森にも似ていないようだ。
そもそも、健二には6か月の赤ん坊はみんな同じような顔に見えてしまう。
健二は遺伝子による親子鑑定に自分と赤ちゃんのサンプルを、妻には内緒で
検査機関に送っていた。頬の粘膜を綿棒で軽く擦るだけで、料金も数万円である。
2週間程で書面による通知があるはずだった。もしも自分の子種ではなかったらと
思うと、健二は心臓がバクバクと脈打った。
健二の会社での仕事はというと、重要な企画が優秀な3人の部下のおかげもあって
大成功。社内での評価が一気に上がり、特別昇給もあった。
来春の昇進は確実だろう。
健二の会社と鵜久森のK社との合弁事業も順調で、経常利益は
過去最高になると予測されている。
噂では偏屈で疑り深いことで有名な鵜久森社長に、上杉副社長が
信用された事が合弁事業の成功に繋がったという。
ある日曜日の昼下がり、里奈は居間で椅子に座って赤子に母乳を
与えていた。新聞を読んでいた健二に里奈は、
「ねえ、聞いて、昨日昔なじみの子から電話があってね、K社の
秘書課に来ないか、ていうの。その子、来年でK社を寿退社するの。
それで上司から誰か知り合いでいい子いないかって聞かれたらしいの。
そしたら彼女、あたしと一緒に写したスマホの写真見せたら、
是非一度面接に来させて、て上司の人が言うんだって。来春からだから、
まだ先なんだけど。会社のすぐ近くに保育園があって、K社が出資していて
社員は優先的に安い料金で子供を預けられるらしいの。どうかなあ。
いずれ一戸建ての家に住みたいし、もう少し貯金が必要でしょう。」
健二はこの話が出ることを予測していたので、
「いいんじゃない。里奈がそうしたいなら。」
と新聞から目を離さず、ややクールな口調で答えた。
「健二さんに見てほしいものがあるの。」
里奈は子供用のベッドに由奈を寝かせると、タンスの引き出しから
何やら取り出してきた。預金通帳だった。
「健二さん、いま家にいくら預金があるか知ってるの?」
健二はお金の管理が苦手で、全部を里奈に任せていたので、
「うーん、2百万くらい?」
「そんな金額じゃないわ。」
「じゃあ、百万?」
「見て!」
里奈の渡す通帳を開くと、健二は思わず声を上げた。
「こんなに!!」
詳細な金額については個人情報であるからここでは書けないが、
健二の予想を良い意味ではるかに裏切る額であったことは間違いない。
「どうやって、こんなに貯めたの?」
健二は心の中で、誰からこんなに貰ったの、と聞きたいところだったが、
必死で言葉を飲み込んだ。
「友達に投資を教わってちょっとやってみたら、何となく儲かっちゃって。」
もはや里奈には何もかなわない、と健二は思った。
ここまできて離婚は難しい。
夫婦の真実を打ち明けられる人もいないし、
いたとしても誰も離婚に賛成しないだろう。
健二のことを間違って美人局という人があるかもしれない。
しかし、健二は誰も騙してはいない。
むしろ健二を騙そうとしているのは周囲のみんなではないか。
その夜健二は里奈を抱き、久しぶりに3度果てた。
里奈は出産してもいっこうに性欲は低下しなかった。
天然のセックス好きであった。
乳房は子に吸われなければパンパンに張って、
健二が揉むと噴水のように母乳が吹き出た。
翌日会社に検査機関から親子鑑定の結果が届いたが、
健二は開封せずにそれをシュレッダーにかけた。
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