以前そうしたように健二は出張先のホテルの部屋で、
夜、タブレット上に写し出される自宅寝室のウエブカメラの
映像を見ていた。その夜、健二の予測では上杉副社長が現れる
はずであった。ところが里奈と寝室に現れたのは別の男だった。
健二は最初、その頭の禿げた男が誰か分からなかった。
その男は健二の勤めている会社と提携関係にあるK社の鵜久森社長だったが、
以前盗聴した音声で声は聴いていたが、現在の風貌は知らなかったのだ。
K社のホームページには50代のころの、まだ頭髪のあったころの写真が今も
掲載されていたのだった。鵜久森は小肥りで、下腹部がやや出てはいるが、
引き締まったからだをしていて、たぶんゴルフで鍛えているのだろう。
だが、どう見ても60代半ばの男は里奈と親子ほどの差がある。
「里奈さん、本当にここに来て良かったのですかね。いや、
私は嬉しいのだが、ここは夫婦の寝室でしょう。」
「夫から電話があるといけませんから、ここでよろしいですわ。」
「里奈さん、妊娠5か月ということじゃが、もしやその子は私の子種という
可能性はないのかね。」
「違いますわよ、正真正銘夫の子ですわ。」
「そうかい、そりゃ残念だ、もしや私の子ではと期待しとったのじゃが。
ところで、里奈さん。私の会社で働いてみないかね。秘書が近々1人寿退社
するのでね、秘書課に来てほしいのじゃよ。無論、上杉副社長には許可を
もらっておるので、里奈さんさえ良ければ、という事なのじゃが。」
「今日の昼に上杉さんから電話を頂いて聞いておりますわ。
主人とも相談して決めたいと思いますが、主人に何て切り出そうかと
考えてますの。」
「そうだな、高校の同級生がわが社の社員で、その紹介とか……うーん、
また考えておくよ。今日は久しぶりに楽しませてもらうよ。」
健二は自分が全く知らぬ間に、自分の妻の運命が決められて行くのに驚き、
改めて里奈のお腹の子の父親が誰なのか、疑問を感じ無いわけには
いかなかった。
鵜久森は里奈に言った。
「お風呂に入れさせて頂けないかな。出来れば里奈さんと一緒に入り
たいのじゃが…」
「よろしいですわよ、準備しますからしばらくお待ちになっててね。」
そう言うと里奈は寝室から出ていった。
鵜久森は1人寝室に取り残されると、棚に置いてある健二と里奈の
記念写真を手に取って見たりしていた。それは4年前に新婚旅行で
行ったハワイのワイキキビーチで撮った写真だった。21歳の
スタイルの良い美人の里奈と、冴えない風貌の27歳の健二が
水着姿で満面の笑みで写った写真だった。鵜久森はじっと見ていたが
ふふふふと淫靡な笑いの後、それを棚に戻した。
健二はタブレットに写し出される映像に、激しい怒りを感じながらも、
成り行きを興味津々で見つめていた。
その時里奈が部屋に入ってきた。
「社長さん、お風呂が入りましてよ。」
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