判定結果は疑いようもなく陽性だった。
妻里奈は妊娠している。
健二には自分の子だという確信がない。
「これ、俺がパパになったてことなんだよね。」
「そうよ、健二はパパになったのよ。」
「そうか、里奈、ありがとう。」
「あたしも嬉しいわ。」
「女の子かな、男の子かなあ。」
「まだ分からないよ。」
「あ、そうか、そうだよな、アハハハ」
「健二、愛してるわ。」
「俺も愛してるよ。」
健二はこれが自分の運命なのか、と思い始めていた。
美しい妻、順調な仕事、会社で大失敗をしながら、同期入社の誰もが羨む
仕事の抜擢。健二はふと小学生の頃のあるイタズラを思い出していた。
当時健二の家庭は、父親の勤める会社が社宅にしていたマンションの4階に住んでいた。
ある日ベランダに鳩が巣を作り卵を産んでいた。母は鳩がフンをするのを
嫌い追い払っていたのだが、エアコンの影に粗末な巣を作って、
知らぬ間に卵を産んでいたのだった。
可哀想なので子が巣だつまで放置することにした。ところが、別の方角の
ベランダにも違う鳩の夫婦が卵を産んでしまっていた。小学生の健二は
卵を温める鳩を毎日観察していたが、ふとイタズラ心が起きて、卵同士を
入れ換えてしまったのだ。どうなるか興味津々で見ていたが、それぞれの
鳩の夫婦は卵がかえり、雛が巣だつまで世話を続けたのだった。他人の
鳩が産んだ卵を温め、子が一人前になるまでエサを与えて育て上げたのだ。
「きっと俺はあの時の鳩のバチがあたったのだ。」
まだ健二の子でないと決まったわけではなかったが、
里奈が他人の子を宿しても自分への因果応報だと思い始めていた。
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