藤田はただ押し黙ったままである。時折指先を動かすだけであった。暫くの静寂が室内に漂う。『そうか…、それでか…』藤田がポツリと呟いた。誰に話し掛けているのか…僕か?其れとも独り言だろうか…。『なっ、涼介…。お前を見ていると、何か懐かしさを感じるんだ。お前の話しを聞いて思い出した。昔の俺に似ているんだ…。つまらない事に夢中になり、自分で自分を追い詰めてしまう。叶わない相手を好きになり、自暴自棄にねる。ただ、自分自身を傷付けていることすら気付かない…。昔の俺にそっくりだ…。涼介…お前の向日葵は綺麗か?本気で向日葵を観察しているのか?』藤田の遠回しに語り掛けてくる話しに聞き入っていた。『はい…綺麗です。何て言って良いか分からないけど…苦しくて…』自分の素直な気持ちであった。形の無い物を表すのは難しい…ただ、言葉を選びながら形容するしか術がなかった。『そうか…そうだよな…』『はい…』ぎこちない会話だけのやり取りである。『先生も…その、僕と同じような経験があるんですか?』藤田は暫く思案すると、静かに口を開いた。『ああ…涼介と同じ歳にな…相手は担任の先生だった。綺麗で、優しくて…。俺が初めて夢中になった女性だったよ。』そう言うと藤田はまた口を噤んだ。
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