藤田が驚くのは無理もなかった。後、半年弱で受験を迎える学生が向日葵の観察である。他の生徒は切羽詰まったように受験勉強に勤しんでいる。『涼介…、何だ?向日葵の観察って?そんな余裕があるのか?皆、参考書に釘付けになっていると言うのに…』藤田の話しを聞いている内にも心の中で消化仕切れないような蟠りを感じていた。何とも重苦しい感情である。『実は…』僕は事の次第を藤田に打ち明けた。近所のおばさんを好きになり、向日葵を口実に会話をしていること、おばさんの写真を撮ってその姿を独占していることである。藤田に失笑、軽蔑、そして一喝されることは覚悟の上であった。僕は其れを望んでいたのかもしれない。心の奥底に潜むモヤモヤ感を吹き飛ばせるような…押し潰されそうな焦燥感からの解放を望んでいた。『涼介!お前みたいな子供が相手にされる訳ないだろう!そんな色気付いている暇があったら勉強でもしていろ!』堕落した僕の気持ちを打ち砕くような叱咤の砲火を浴びせられるに違いない。僕は恐る恐る顔を上げて藤田の様子を伺った。机の上に両肘を置き、拳で自分の顎を支えている姿が見えた。言葉を発する訳でもなく、ただ視線を机の隅に向けているだけである。
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