『おい、涼介じゃないか?何やってんだ?』不意に声を掛けてきたのは担任の藤田雄二である。いかにもと言うような体育会系の身体付きだが部の顧問などはしていなかった。歳は30歳ほどである。僕の手元を見ながら何かを察知したかのように、『また携帯ゲームか?メールでもしているのか?みんな教室で予習してるぞ…たまに息抜きにゲームも良いが受験までもう少しだ…お前も頑張れ!』心配しているのか、怒られているのか分からないような説教に背を押されるように自転車置き場から歩き出した。『涼介!携帯は教室に持ち込むなよ!』念を押すかのようにまたしても藤田の声が聞こえてきた。携帯はバッグに入れロッカーの中に仕舞い混んである。教室への持ち込みは厳禁で、見つかろうものなら放課後まで預かり、長時間の説教のおまけ付きである。教室に入れば皆殺気だったように各々教科書、参考書を開いていた。(ここに来ると本当に受験生の実感湧くよな…) 始業のベルが鳴ると教室のドアが開き、担任の藤田が入って来た。『起立!』クラス委員の掛け声の元、クラス全員が同じ行動を起こす。藤田の受け持ち科目は生物であるが、僕には特に興味のある科目ではなかった。ペットとかにも興味がなく、カエルに触る事など勘弁して欲しいくらいだ。『まず最初に前回の試験の答案用紙返すから…。まっ、平均で60ってとこだな。入試の過去問使っている所もあるから…そんなとこだろう。それぞれ、間違えた所をもう一回見つめ直すこと!』藤田は個人個人に一言付け加えながら渡して行った。[『葛城…』藤田の声に立ち上がると答案を受け取った。『おい、葛城…立派なもんじゃないか…30点…後ろから数えたら学年一の成績だ…後で俺んとこに来い!』そう言うと次の者に答案用紙を渡した。
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