二人の緊張は留まる処を知らない。
双方共が年甲斐も無く言葉を詰まらせて、全く話が弾まない。
そんな状況を何とかせねばと思った彼は、予め麻由美から聞いていた彼女達の過去にさかのぼる武勇伝を話のきっかけに持ち出した。
彼にはそれだけしか手立てが無かったのである。
康治「麻由美さんから貴女の話・・聞いてますよ!」
「バブルの頃は、かなりブイブイさせながら踊っていたらしいですね!」
「う~ん!私もこの目で見て観たかったなぁ~」
イケイケの頃が話題になると彼女も眼を輝かせて、徐々に話が乗って来た。
ゆう子「へぇ~!!麻由美から聞いたの?」
「その話?」
「麻由美ったら!!」
「もうっ!!ハズカシィよ~!」
彼女の言葉遣いもフランクになり、場の雰囲気も明るくなって来た。
康治「二人共、今でも滅茶苦茶綺麗なんだから」
「あの頃は眩しい位に輝いていたんでしょうねぇ~」
ゆう子「あの頃、は?・・・」
彼のその一言に、彼女はカチンッと来た。
昔の自分と比べられる事に対して、今の自分が許さなかった。
彼女は自らを次第にヒートアップさせて行く。
ゆう子「今の私はダメって・・事?」
康治「そ、そっ、そんな・・」
「只、貴女の若い頃は・・」
彼は”若い“と云う言葉を出した事を後悔した。
ゆう子「若い、頃?・・・」
「それじゃあ、今は若く無いとでも?・・」
康治「わっ、私が言いたいのは・・」
彼はそう言い掛けて本当に失敗したと思った。
何故なら、彼女の生業は若さを取り戻す事に主眼を置いているからである。
彼はありとあらゆる言葉を駆使して彼女をなだめ様とする。
しかしその行為は逆に、火に油を注ぐ様な効果しか得られなかった。
そして彼女は彼の言葉に奮起して、大きな啖呵を切る。
ゆう子「ちょっと待ってて下さる?」
「今少し、準備に時間が掛かりますので!!」
彼女はそう言い残して、その場から居なくなって仕舞った。
彼は頭を抱えて只々善後策を練るばかりである。
だが、隣の間で着々と準備を始めた彼女の方は助かった。
何故かと云えば彼女の方からきっかけを掴む事など、到底不可能であったからだ。
男に面と向かって、子作りを初めてくれ等とは口が裂けても言える筈が無い。
しかしこれで何とか彼女自らがイニシアティブを取る事が出来た。
その事が何よりも大きな成果である。
そしてそれ程までに彼の狼狽え振りが見事であった事は言うまでも無い。
それに引き換え彼の方は深刻である。
この子作りプロジェクトの成否は自分に掛かって居る。
麻由美からはくれぐれもよろしく頼むと懇願されて仕舞った。
事がご破算になれば麻由美の落胆振りは目に見えている。
彼には絶対に負けられない戦いが、そこにはあったのだ。
ゆう子「お待たせ致しました~!!」
彼女が軽やかな声で再登場する。
彼は自らの目に映った彼女の、その艶姿に驚嘆した。
彼女が纏って来た、その衣装とは。
ゆう子「今もイケイケなゆう子で~すっ!!」
先程までのデニムにウールのセーターを着た彼女はそこには居なかった。
今、彼の目の前に居るのは派手な色のボディコンに身を包んだ現役?さながらのゆう子の姿であった。
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