麻由美「はぁ~・・・ふぅ~・・」
飛騨高山への一風変わった家族旅行から帰って来てこの方、麻由美はやたらと小さな溜め息を吐く様になった。
そんな彼女を気にしてか、雅美と康治は事有るごとに彼女へと質問をする。
雅美「お母さん・・最近、何かおかしくない?」
麻由美「えっ?私が?」
「そうかな?・・そんなに変わって見える?」
康治(まさっ、雅美!!)
彼は彼女へ目配せをする。
麻由美のここ最近の変化に気を遣っての動作である。
雅美(えっ?なに?・・なんなの?)
彼女も彼も麻由美の心の内までは分かり様が無かった。
只一つ、気になる事に心当たりがあった。
雅美(まさか・・・)
(お母さん・・更年期、なの?)
彼女は要らぬ心配まで初めてしまった。
そんな彼女を見て、彼は意を決して行く。
麻由美を外に連れ出して、何とかして今の状況を聞き出してみようと試みる。
二人は駅前の喫茶店へと向かった。
麻由美「あの・・何なのかしら・・」
「こんな処まで呼び出して・・」
康治「あ、いや、別に・・」
「偶にはこんな処も、良いんじゃないかな~って・・」
「それだけ・・で、すが・・」
彼女は彼の挙動不審な表情を伺って、ストレートに指摘する。
麻由美「貴方って、本当に嘘が吐けなくなっちゃったのね!」
康治「う、うっ、嘘っ?!!」
麻由美「プッ!(笑)・・ふふっ・・」
彼女は彼のリアクションが大好きであった。
その辺の売れないお笑い芸人よりも下手なボケである。
彼女は彼の云わんとする事が、大体は読めていた。
麻由美「みんな、心配してくれてありがとう・・ねっ!」
「でも本当の心配事は、そんな事じゃないのよ」
彼女はこれ以上話を引っ張っても仕方が無いと悟り、彼にだけは真実を告げる事を決断した。
麻由美「康治さん、貴方には・・」
「迷惑を掛ける事になるかもしれないの」
「だから・・・」
彼女は一瞬言葉を溜めて彼に告げて行く。
麻由美「だから、出来るだけ雅美には黙っててねっ!」
彼には彼女の言っている言葉の意味が半分も分からなかった。
そして数日後、麻由美の指令を受けた彼は彼女の指定した場所へと赴いて行く。
目指す場所は、彼女の通う”ゆう子“のお店であった。
彼は小ざっぱりとしたパンツとシャツ、そしてジャケットとコートを羽織って店の扉を開ける。
康治「あの~・・こんにち、は・・」
彼は小さな声を掛けて中を訪ねる。
この日は店の休日らしく、人の気配は感じられなかった。
だが奥の方から、鋭い女性の声が聞こえて来た。
彼女は何やら怒っている風である。
ゆう子「麻由美っ!!」
「何度メールしたと思っているのっ!!」
ゆう子は入って来た人物を勘違いしている様であった。
ゆう子「もうっ!!いい加減にし・・てよ?・・・」
彼女が確認した人物は男性であった。
しかも確かに見覚えが有る。
以前に麻由美が送って来た写メに写っていた人物である。
ゆう子「あっ、あら?・・私とした事が・・」
「・・ォッ、オホホホッ(汗)・・」
彼女は口元に手を当てて、ベタなリアクションを取る。
リアクションを取りながら彼女は、酷くびっくりして仕舞った。
目の前の男性が思っていたよりも、数段若く見えたからである。
しかもイケメンとは少し違うかもしれないが、彼女のタイプにドンピシャの優し気なルックスであった。
彼女の女である部分が急速に、そして思っていた以上に大きく膨らんで行く。
康治「え~と、私・・」
「麻由美さんに云われて来たんですが・・」
彼も又、麻由美に伝えられていた情報を遥かに超えるルックスと雰囲気を持つ彼女のオーラに圧倒されていた。
それに加えて麻由美の指示通りの行いを、この後彼女と共に実行して行く等とは・・・。
彼には到底信じる事が出来なかった。
だが、ここ迄来てしまったならば只々前進あるのみである。
彼は臆せずに店の中へと入って行く。
ゆう子「どうぞ~!」
「こちらでゆっくりとなさって!」
彼女は彼を奥のリビングへと誘う。
彼は彼女に促されて、豪華な部屋に鎮座しているソファーへと慎重に腰を下ろして行く。
康治「立派な部屋ですね~!」
(それに加えて、こんな美女と、これから・・)
彼はこの部屋に在る全てのモノに圧倒されていた。
ゆう子「それ程でも無いかと・・」
彼女はそこまで口にして、本来云うべき疑問を思い出した。
ゆう子「あの・・何故貴方が直接此処にいらしたのかが・・」
「よく分からないのですが・・」
彼女はこの日、麻由美と会う約束をしていたのである。
その疑問を受けて、彼が応える。
康治「それを言われてしまったら・・」
「私も大して変わらない状況・・かな?」
彼女と彼は顔を見合わせて、少しの間ではあったが固まって仕舞った。
二人共、次の言葉が出て来ない。
その均衡を破ったのは彼女の方であった。
ゆう子「貴方が此処に来られた理由は、お分かりになって?」
彼女のストレート過ぎる言葉に彼が応える。
康治「ええ!」
「全て麻由美さんから聞いています」
二人の身体と心は、いきなりの展開に強く緊張して仕舞った。
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