或る日、康治と麻由美のスマホにメールが届いた。
雅美(手続きが全て終わりました)
雅美の離婚が成立した。
短い話し合いの末、双方納得の上での離婚であった。
これで晴れて彼女は独身となった。
もう康治と正美の間に一切の障壁は無くなった。
彼女は程なくして実家へと戻る。
康治は麻由美と雅美の住む家へ通う事が日課となった。
その雅美が実家へと本格的に戻って来た日の出来事。
麻由美は落ち着かなかった。
彼女らの間では既に心での話し合いは終わっていた。
雅美は母の行動を理解して、その行為を認めていた。
二人の間に感情的なわだかまり等は一切存在せず、互いの感情を推し量る余裕すら有った。
只、麻由美は娘に対して、最後の一言が言えずに居た。
気持ちを察するのではなく、言葉にして互いの思いを確かめたかった。
自らの無謀とも云える行為に対しての、娘の心境が聞きたかった。
麻由美「雅美ぃ~、出掛けるわよ~!」
雅美「あっ、ちょっと待って~!」
二人は麻由美が通うエステへと向かう。
先日は雅美が麻由美をプールへと誘った。
今日は、そのお返しである。
雅美「私、エステって初めて~!」
「なんか、緊張する」
麻由美「何言ってんの?」
「あそこはリラックスする為に行くところ!」
二人は歳の離れた姉妹の様な雰囲気である。
仲良く寄り添って歩いて行く。
そして電車を乗り継いで目的の場所に着く。
「いらっしゃいませ」
「本日もごゆるりとお過ごしください」
丁寧な対応と言葉に導かれて、二人は先ず豪華なリビングでハーブティーをご馳走になる。
そしてエステティシャンの柔らかな手捌きで、緩やかな音楽を聴きながら全身のボディトリートメントをオールハンドで堪能する。
心や体も軽くなった二人は、リラックスして帰途へと就く。
その帰りの道すがらに喫茶店へと脚を向ける。
麻由美はそこで、もやもやしていた気持ちを解放した。
麻由美「ねえ、雅美?」
雅美「んっ?なに?」
麻由美「私に遠慮なんて・・」
「しなくていいからね!」
雅美「遠慮?」
麻由美「うん!」
「貴女達は自由に振る舞って!!」
雅美「な~に~?今さら!」
麻由美「えっ?」
麻由美は雅美の言葉に戸惑った。
心を開けば本気で嫌味を言われると思っていたからだ。
雅美「お母さんは頑張って来た」
「女手一つでね!」
「だから・・・」
麻由美「・・・・・」
雅美「私は気にしてないよ!」
「だから私達の事も気にしないで!!」
「・・て云うか・・」
「私も応援する!」
「お母さんの事をねっ!!」
麻由美「応援って・・・」
雅美「お母さん、まだ若いんだから」
「きっと上手く行くよ!!」
「まだまだ魅力的な女性だもん!!」
麻由美「雅美・・・」
雅美「どっちが早く出来るか・・」
「競争しよっか?!!」
麻由美「もうっ!!馬鹿な子!!(泣)」
二人は彼を巡ってのライバルではなく、共に戦う同志であった。
三人は志を同じくする奇妙な関係だと明確に判明した。
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